■汚屋敷の跡取り-64.生き直す(2015年03月21日UP)
分家で古ぼけたスポーツバッグをひとつ貰い、荷物を詰めた。
貯金箱、卒業証書等を入れたファイル、着替えと二分の一成人式の自分史。
バッグに入りきらない衣類と成績表の類は、ムネノリ君に頼んで灰にして貰った。
マー君達は本当なら、三賀日中は滞在する予定だったそうだが、今夜の内に出発する事になった。
ジジイ達とは、もう顔をあわせたくないらしい。
ムネノリ君、メイドさん、騎士二人は移動の魔法で一足先に帰ってしまった。
米治叔父さんが駐在所から戻って参加し、契約書が完成した。オレ、マー君、叔父さん、ばあちゃんが拇印を捺す。
もう後戻りはできない。いや、しない。
マー君の車に乗り込む。
ばあちゃんが、風邪引かないようにとか何とか、長々と心配ごとを口にする。
もう、ばあちゃんに甘えていられないんだ。
実は、まだ何をどう頑張ればいいのかすら、わかっていない。
でも、もうここには戻らない事と、他人のせいにしない事だけは決めた。
ムネノリ君は、もうどうでもいいって言ってたけど、ちゃんと謝ろう。
あれは、オレを許してくれたんじゃなくって、オレのクズっぷりに呆れて諦めてしまっただけなんだ。
許して貰えないだろうけど、せめて約束を守る事で償おう。
エンジンがスタートし、暗い田舎の夜道が車窓に流れた。
もう二度と戻らない故郷の夜は、静かだった。