■汚屋敷の跡取り-03.自室(2015年03月21日UP)

 先週と同じ、本や雑誌が積み重なった埃まみれの階段を上り、エアコンの効いた部屋に体を潜り込ませた。
 暖かさにホッとする。
 泡が付いたトレーナーを脱ぎ捨て、ベッドに積み上げられた服の山からテキトーに着られそうな物を引っ張り出して袖を通した。
 穴の開いていない靴下が視界に入ったので、ついでに履き替える事にする。
 ……と、その前に、トイレから帰ったら、足の爪を切るつもりだったんだ。
 裸足になってパソコンデスクの前に座り、マウスの横に置いた爪切りを手にとる。肉を切らないようにゆっくり、確実に爪切りを動かす。
 切れた爪がパチンと音を立てて弾き飛ばされ、部屋のどこかに消えた。
 カップ麺の容器、お菓子の空き袋、空缶、空のペットボトル、使用済みティッシュ、段ボール、紙屑、尿ペット等々が腰の高さまで堆積し、その中に本や服の山が崩壊してできた塚が幾つも形成されている。
 ベッドの上は、枕周辺だけに辛うじてスペースがあり、そこから布団に潜る事ができるが、足許辺りは完全に服塚に埋もれていた。
 今更、爪の十本や二十本、どうと言う事はない。
 右親指の爪がEnterとShiftの間に入り込んでしまった。これはマズイ。
 キーボードを逆さにして振ると、爪は難なく机の上に落ちた。
 お菓子の食べカスや抜け毛、埃の塊も一緒に落ちてきた。ふとした好奇心で爪の臭いを嗅ぎ、全力で後悔。
 キーボードをパソコン本体の上に載せ、その辺に落ちていたティッシュで机の上の埃等を払った。パソコンデスクの上にくっきりと掃き跡が残る。
 マウスとマグカップと箸も本体に載せ、箱からティッシュを一枚取って机を拭いた。
 黒い抜け毛、灰色の埃、茶色い食べカス、白い爪を机の下に払い落し、ティッシュをゴミ箱があった辺りに投げる。
 丸めたティッシュがどこに着地しようと気にする必要はない。
 床全体がゴミ箱のような部屋だ。と言うか、床自体もう何年も見ていない。
 爪切りを終え、さっき発掘した爪先に穴が開いていない靴下を履いて、マウス、キーボード、マグカップ、箸を所定の位置に戻すと、画面に向かった。
 ディスプレイには、ネット掲示板のニュースに関するスレッドから、コメントをピックアップしたまとめブログが表示されている。
 どこかのローカル新聞が素っ頓狂な求人広告を出した件について、スレッドが乱立、それらをまとめて転載した記事だった。
 記事そのものは数年前のもので、今更コメントするまでもない。
 さっき知ったばかりで、「祭」に乗り遅れた事が悔まれた。
 そのローカル新聞の発行エリアの県が、職歴のない若者を対象にした緊急雇用創出事業を行い、地元企業に外注。
 そのローカル新聞は受注企業のひとつで、ヲタ系ニュースの記者を募集していた。オレの県からは遠い。求人の〆切もとっくに終わっている。
 「ニート=オタク」の短絡思考と微妙な萌え絵でオタクに媚びた広告が癇に障った。
 萌えってモンをまるでわかってない奴が、表面だけなぞったような魂のない美少女キャラ。しかもヘタ。その辺のイラストSNSに投稿してる中坊の方がまだマシなレベル。絵ってもんを舐めてんのか。ヲタを舐めんのも大概にして欲しい。
 つーか、左巻きの新聞屋がこっち見んな。マスゴミが。
 オレ同様、アホなローカル新聞に憤るコメントと、面白がって「こうすれば萌える」とアドバイスするコメント、描き直した美少女イラストの投稿で、掲示板は炎上状態だった。

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