■汚屋敷の跡取り-50.オレの歴史(2015年03月21日UP)

 帰宅したオレは、トイレに寄った後、二階に駆け上がった。
 腹は減っているが、どうせ明日の朝には処刑されるんだ。
 もうどうでもいい。って言うか、メシ食ってる場合じゃねぇ!
 まず、雑誌とゴミ袋を廊下に出し、ドアを全開にした。
 物がなくなって広くなった廊下は、八束の雑誌と九個のゴミ袋を置いてもまだ通る余裕があった。窓と雨戸を開け、エアコンをつけた。
 パソコンも起動する。
 12月29日20時36分の表示。まだそんな時間だったのか。
 ツネちゃんがパス破って中身晒してpgrする惧れがある。エロゲをチマチマ一本ずつアンインストールしている場合じゃない。ハードディスクを初期化する。

 【12月29日20時39分現在 押入れ容量89%使用中】

 玄関灯と部屋の窓から漏れる明かりを頼りに、雑誌とゴミ袋を蔵の前に置きに行く。
 吹雪の夜オレが必死に新雪を漕いで作った道は、雪ごと消えていた。
 双羽(ふたば)隊長か三枝(さえぐさ)が、魔法で除雪したんだろう。
 オレは死にそうになりながら頑張っても、自分の通り道しか作れなかったのに、魔法で楽して庭丸ごと除雪とか、あいつらズルイ。楽して得してるようなズルイ奴らに、オレの苦労なんて、一生わかんねーんだろうな。
 パソコンデスクの湯沸かしポットから、お湯だったものをマグカップに注いだ。部屋を丸洗いされた時、プラグを抜いてそのままだった為、すっかり冷えている。
 冷水で喉の渇きを潤して、作業に戻った。
 野球用具等は見られても困らないので、段ボールのまま捨てる。ゴミ袋に詰め替える時間が惜しかった。
 押入れの面積は二畳分。上段、下段、天袋に物がぎっしり詰め込まれている。
 これだけ物を捨てたのに、まだ奥の壁面が見えない。
 押入れ下段にちょっとしたスペースが空いただけだ。
 長い間、押入れには触っていなかった。全て、オレにとって要らない物だったんだ。
 必要な物だったとしても、もう用はない。
 だって、オレは明日の朝、無実の罪で処刑されるのだから。
 裁判なしで処刑とか、野蛮人め。だが、この国の政府は、外国の王族と揉めるのがイヤで、無実で冤罪のオレを見捨てる。無辜の民を見殺しにする政府は、やっぱり税金泥棒じゃねーか。クソッ!
 下段に押し込まれている物は、ほぼ段ボール詰めだった。
 中身を確認する事なく、押入れから出す。内容物が不明な段ボール四つを廊下に出してようやく、襖の幅程度に奥の壁が見えた。
 白い息を吐き、汗だくになりながら、庭に段ボールを積み上げた。
 大小様々な箱に詰まったオレの思い出。
 オレ自身ですら忘却したオレの歴史だった。
 運んでいる最中にふと思いつき、段ボールはコの字型に積み上げていった。
 手もジャージも埃まみれだったが、気にせず部屋に戻り、上段に取り掛かる。
 上段も、手前は萌えフィギュア。
 初期の頃は、保存用と観賞用で二個ずつ買っていた。その保存用だ。観賞用と使用済みは既に捨てた。
 ヒロイン一人一人に、心の中で今生の別れを告げながら、漆黒のゴミ袋に詰めた。
 彼女らも、オレと一緒にこの世から去るんだ。すぐにまた会える。
 フィギュア群の奥に眠る段ボール。
 この中身は憶えている。同人誌だ。
 これも保存用と観賞用で二冊ずつ買っていた。
 昔の同人誌は、奥付にリアル住所が書いてあった。同人作家のプライバシー保護の為にも、人目に晒す訳にはいかない。押入れから出し、ガムテープを貼り直して廊下に出す。
 押入れ上段、手を伸ばして届く範囲の物は、全て庭に出した。
 まだ、押入れ全容量の半分も出していない。
 洗面所で手を洗い、冷水で顔を洗って気合いを入れ直した。

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