■汚屋敷の跡取り-45.自己紹介(2015年03月21日UP)

 マー君が口を挟んできた。
 オメーにゃ聞いてねーよ。嘘で固めた学歴自慢でドヤ顔しやがって、寒いんだよ。胸糞悪い。
 「あのね、僕、今……」
 「いや、働いてるったって、どうせ金払って働かせて貰う作業所とかなんだろ?」
 「ゆうちゃん、聞きたくないのはわかるけど、遮らずにちゃんと聞けよ」
 今度は、賢治が余計な口を挟んできた。
 お前にオレの何がわかるんだよ。黙ってろ。
 「あのね、僕、母校で先生してるの」
 「宗教(むねのり)、そんな省略せずに、経済みたいに言うんだ」
 「えっ? う……うん。僕、帝国大学の魔道学部に入学して、院で術理解析学を専攻して、卒業してからも、ずっと大学に居るの。えっと……今それで、准教授してます」
 このオレが落ちたのに、帝大の大学院卒で、オレより年下なのに准教授?
 嘘もここまで行くと笑えるな。「釣堀でクジラ釣ってきたよー」並の嘘八百じゃねーか。バカバカしい。
 こんなトロくせー奴が、帝大に……最高学府に合格できる筈ないし、そこで准教授とかアホか。どんな講義してんだよ。学問の何を語る気だよ。そのロリ声で。
 「いや、いやいやいやいや、そんな見え見えの大嘘……」
 「優一! いい加減にしないか!」
 半笑いで言うオレの言葉を皆まで言わせず、米治(よねじ)叔父さんが眉間に皺を寄せて遮った。
 親子丼を食べ終わった三枝(さえぐさ)が、丼を置いて分家の嫁に向き直り、深々と頭を下げた。分家の嫁は三つ指をついて返礼し、空になった丼を持って座敷を出て行った。
 「さっきから否定してばかりで、どうして人の言う事を素直に聞けないんだ」
 えっ? 叔父さん、怒るポイントそこなの? こいつらの言う事、嘘臭くてツッコミ所満載で、鵜呑みになんてできないんだけど? 突っ込まなかったら「承認」扱いになっちゃうだろ? 嘘が罷り通るのって、ヤバイだろ?
 「いや……だって、証拠が……」
 「特許の事なら、特許庁で手続きすれば、登録情報を見せて貰えるよ」
 ツネちゃんが淡々と説明した。
 「会社の事なら、法務局で手続きしたら、登記簿を開示して貰えるよ」
 マー君がツネちゃんの口調を真似して言った。
 「ごっ……ごちそうさま。アッ君も食い終わったよな!? 宿題教えてやっから来いよ」
 「う……うん。ごちそうさまでした」
 中坊二人が、空の食器を持って立ち上がった。気まずくなったらしい。
 オレだって逃げてーよ。
 つーか、オレが一番居たたまれなくて逃げ出してーんだよ!
 「この国で魔法使いって珍しいし、帝大サイトの学部紹介とかに載ってるんじゃない?」
 藍が冷やかに言った。下座の土鍋はほぼ空になっていた。
 「いや、そんなサイトなんて、その気になれば、いくらでも改竄できるし……」
 「ゆうちゃん騙す為だけにそんな犯罪までしてどうすんだ。ハイリスクノーリターンじゃないか」
 マー君がご飯を頬張りながら言った。
 双羽(ふたば)隊長が、食べ終わった食器を重ねている。
 「うるせえ! そんなに言うなら証拠見せろよ! 証拠!」
 「えっと……これでいい……?」
 ムネノリくんは、ポケットから身分証を取り出して、おずおずと開いて見せた。
 帝大の職員証、帝大の健康保険証、障碍者手帳、外国人登録証。
 「いや、こんなの偽造しようと思えば、子供でも簡単に作れるし! て言うか、これ本物だったらお前、外人じゃねーか!」
 「宗教(むねのり)は、十八歳の時にムルティフローラ籍を選択したんだ。今は『教授』の在留資格で働いてるんだよ。それに、病気や障碍で働けない人は『ニート』じゃないよ」
 ツネちゃんが、わかりやすく説明する。
 ムカつくが、気になる所だけ聞いてみた。
 「は? いや、三つ子なのに、ムネノリ君だけ?」

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