■汚屋敷の跡取り-52.火葬(2015年03月21日UP)
十歳の自分史を学習机の上に置き、オレは作業を再開した。
壁際に中途半端に残った密林の段ボールを紐で束ねる。
本棚の棚板を外す。嵌め込み式の棚板は簡単に外れた。これも紐で束ねて外に出す。
押入れと天袋の中身、段ボールと棚板を庭に出し、部屋に戻って雨戸と窓を閉め、エアコンを切った。
本棚本体を廊下に出し、壁のスイッチで部屋の明かりを消す。
三十七年の人生の内、半分以上をこの部屋に閉じこもって過ごした。
その部屋の中身の殆どが、ゴミとオレの人生に必要のない物だった。
オレは何の為にこの世に生を受けたのか、わからないまま、明日の朝、処刑される。
多分もう日付は変わっているだろうから、今日だ。
夜が明けて、ムネノリ君が目を覚ましたら、すぐ三枝にオレの処刑を命じるだろう。
誰も、助命の嘆願なんかしない。
処刑なんか、クソ喰らえだ。
オレは、コの字型に並べた廃棄物の中心の窪みに本棚を裏返しに置いた。その上に比較的軽めのゴミ袋を載せ、本棚を埋める。
本棚を低く持ち上げ、中に身を滑り込ませた。片手で本棚を持ち上げたまま、もう一方の手で滑り込みの跡を消す。
手を放すと、外界から遮断された。
本棚はオレの棺桶になった。
処刑なんか、されてやらん。
ムネノリ君にオレを殺させて、人殺しにしてやる。
無辜の民を生きたまま焼き殺した罪人として、王位継承権を剥奪されろ。ついでに、日之本帝国からも追放されやがれ。王族でなくなれば、あんな奴、即効で野垂れ死にだ。
せいぜい苦しみながら死ぬがいい。
オレは、ムネノリ君の魔法で痛みや熱さを感じる間もなく灰になる。
オレを怒らせた事を全力で後悔させてやる。
【12月30日午前6時48分現在 押入れ容量0%使用中】
寒さと緊張で一睡もできなかった。
走馬灯なのか、さっき見た十歳の自分史が、頭の中をグルグル回った。
二十歳の成人式には、当然ながら参加していない。
同級生とは高校卒業以来、一度も連絡していない。どうせオレの人生には関係のない奴らだ。レベルの低い田舎者なんか、友達でもなんでもない。単なる同級生だ。
もう顔も名前も覚えていない。
乾いた地面を歩く複数の足音が近付いてきた。
いよいよだ。