■汚屋敷の跡取り-39.死蔵品(2015年03月21日UP)
階段横のスペースにごちゃごちゃあった物も、いつの間にか片付けられていた。
見た事のないドアが開け放たれている。
覗いてみると、何もない狭い板の間があるだけだった。中の物は全部出したのだろう。
奥の右手側は天井が斜めに低くなっている。この部屋は階段下の収納スペースだった。
生まれて三十七年間、この家で暮らしているが、知らない部屋、ドア、通った事のない廊下がある事に驚きを禁じ得ない。
存在だけは知っていても、入った事のない部屋もある。
それも、意図的に扉を塗り込めて「開かずの間」にしたのではなく、物がいっぱいで物理的に入れないとか、棚が邪魔で襖が開けられないとか、物を置き過ぎて廊下が通れなくなって、その先の部屋に行けなくなったとかで……だ。
……オレん家、マジでゴミ屋敷じゃねーか。
家がでかくて中も広い筈なのに、無茶苦茶狭かった。
廊下も碌に通れなかった。
物がなくなって、やっと家の広さがわかった。
部屋に入れるようになった。
何だこれ? 何で今まで放置してたんだ?
いつから、こんな状態だったんだ?
知らない部屋が殆どって事は、オレが物心つく前からこんなだったって事だよな?
物に占領されて、人が一歩も入れない部屋の存在意義って?
物置きだって、中の物を出せなきゃ意味ねーよな?
あっても使えない物なんて、ないのと同じで……
ウチは豪農で、家がでかくて蔵と倉庫もあって、物持ち良くて金持ちだと思ってたけど、実は違うんじゃね?
少なくとも物持ちは良くないよな?
いっぱい「ある」ってだけで使ってない。
使えない物は「ない」のと同じだ。
オレの服、あんなにあったけど、捨てたヤツの方が多かった。
オレがもう何年も洗濯に出さないから、ババアがセールの度に、ダサい新品買ってきて、飯と一緒に置いてった。
でも、それも洗濯しないから、どんどん溜まって……ちゃんと見たら、虫に食われたり黴が生えたりして、もうホントに着られなくなってて、捨てるしかなくなってた。
他の部屋の物も多分、黴や虫食いで使えなくなってて、捨てたんだろうな……
捨てた物を元から買ってなければ、スゲー貯金できてたんじゃね?
つか、ババアが転んで怪我して、病院代が掛かる事もなかった訳で……
今まで、金をドブに捨てるような事してたって事なのか?
何もない階段下の収納スペースの闇を見ている内に、背筋が寒くなってきた。
チリひとつ落ちていない階段を無言で上り、部屋の窓を全開にする。
襖はゴミの堆積層だった部分が変色していた。古びたカーペットには、タンスの跡がくっきり四角く残っている。このカーペット、元は緑色だったんだな。
部屋の入り口からは、パソコンデスクが丸見えになっていたが、電源は落としてあるのでセーフだ。
部屋の中は、メイドさんに堂々と見せられる状態になっていた。
そしてそれは、掃除できる場所がなくなった事をも意味していた。