■汚屋敷の跡取り-08.目的(2015年03月21日UP)
ツネちゃんに促され、ムネノリ君はロリ声且つ子供のような口調で、斜め上な発言をかました。
……コイツ、声と内臓だけじゃなくって、本気で頭もおかしいのか?
三十年も前に行方不明になった女が、何で大掃除したら出てくるのか、脈絡のなさにクラクラしたが、それが一層、憐れみを誘う。
なんだか色々と可哀想になったので、ちょっと話を合わせてやる事にした。
「いや、大掃除って?」
「山端のおばあちゃんの足の為でもあるんだけど、大掃除してお家をキレイにして、良くないモノをやっつけて、そしたら、ゆうちゃんのお母さん、見つかるよ」
ババアの足? あぁ、また入院されたら面倒だしな。
確かに、廊下は通りやすくなってた。流石、王家に仕えるメイドさんの仕事だけはある。キレイな廊下は通りやすい。
「いや、良くないモノってなんだよ? オバケか?」
「うん。ゆうちゃん、視えてるの?」
「視えてたら、こんな状態で放置なんてあり得ないよ。山端の人達は霊感ゼロだよ」
ツネちゃんが口を挟む。
霊感(笑)由緒正しい豪農の山端家には、幻覚視えるレベルのキ印なんざいねーんだよ。
「でも、真知子(まちこ)叔母さんは……」
「真知子叔母さんは、他所から来たお嫁さんだからな。日之本帝国とか科学文明の国にだって、魔力はなくても霊感だけある人なんて、いっぱいいるし」
ツネちゃんの説明にうんざりした。
何だよ。分家の嫁が電波かよ。
「いや、ツネちゃん、オバケを何とかするって、それ、大掃除の手伝いをするって事?」
「元々そのつもりはなかったんだけど、成り行き上、放っとけなくなって……」
べ……別に手伝うつもりなんてなかったんだからねッ! って、ツネちゃん、ツンデレを微妙に間違ってるぞ。
何でこんな電波共のオヤジが、優秀な瑞穂伯母さんと結婚できたんだよ。あの夫婦が生きてたら小一時間、問い詰めたいところだ。
こんな家に雇われて、メイドさんもさぞかし苦労してる事だろう。折角、有能なんだから、もっとまともな家に仕えるべきなんだ。例えば、この山端の本家とか。
「他のお部屋は、みんなで協力してお掃除してる最中だから、ゆうちゃんは、ゆうちゃんのお部屋をキレイにしてね」
クソの役にも立たんアホの子の分際で、オレに指図すんなよ。身の程を知れよクズが。
……まぁ、オレは大人だから、心臓と頭の弱い奴を怒鳴ったりしない。優しく懇懇と諭してやる。
「いや、いやいやいやいや、それは違うだろう。ムネノリ君、掃除なんてものは、オンナがするもんなんだよ。本家の長男であるオレは、今まで掃除なんてした事ないし、これからする予定も、その必要もないんだ。わかるな?」
「ご自身でなさらないのでしたら、部屋の中身は私共が全て搬出し、焼却処分致しますが、宜しいですね?」
外人女が冷たく言い放った。
「はあ? 何言ってんのオマエ? 何の権限で本家の長男であるこのオレに指図してんの? 他人の物全部燃やすとか、頭沸いてんじゃねーの? 何様のつもりなの?」
オレは外人女と距離を詰めようと、一歩踏み出した。
ゴミの上に居た水の塊が、凄い速さで飛んできて、オレの顔を包み込む。
口の中にまで入ってきやがった。相変わらず、ちょっと熱めのお湯だ。手で払いのけようとしたが、ぬるりとかわされた。
お湯はすぐに口から流れ出し、胴を伝って地面に流れた。地を這いながら、切り落とされた髪を巻きあげ、ゴミの上に舞いあがる。
水の塊は、ゴミの上にオレの髪を吐き出し、清水に戻った。
さっきから、何なんだよこれ?
「何様って……さっきツネ兄ちゃんが言ってたよね? ノリ兄ちゃんはムルティフローラの王族だって。王族の命令で近衛騎士が動くって言ってんの。権限も何も、山端家の俺と真穂の許可があるんだから、問題なんてないだろう」
賢治が生意気な口をきく。泣かす。コイツ絶対、後で泣かしてやる。ツネちゃんもついでに蔵に閉じ込めてやる。