■汚屋敷の跡取り-17.運搬(2015年03月21日UP)
みんな、出て行ったらしい。
仕方がないので部屋に戻る。
オレがまだメイドさんと喋ってんのに割り込みやがって! 何様のつもりだ!?
ムネノリ君め、二度とあんな真似できねーように、後でボッコボコにしてやるからな!
ムネノリ君の代わりにドア横に積んだ段ボール箱を思い切り蹴ってやった。
「………………ッ!」
声も出ない。ひょっとして、爪……割れた?
こっちは激痛で苦しんでんのに、段ボールはびくともしていない。ゴミの上に倒れ込み、苦痛に翻弄されるがままになる。
暫くして、痛みが少し和らいだ。
恐る恐る爪先に手を触れてみた。爪は無事だった。
……さて、そろそろ分家に着いたか?
平静を装ってゆっくりと立ち上がり、自室から出た。まだ痛むが歩けない程ではない。
ババアのつっかけに足をねじこみ、鍵の掛かっていない硝子戸を開け、庭に出た。
誰もいない。近所の田畑にも人影は見えなかった。
どんよりとした雪雲の下、夕日は既に沈み、山の端にうっすらと最後の光が残っている。
……もうこんな時間だったのか。
吐く息が白く凝り、風に流されて消える。
蔵の前には何もなかった。もう全部燃やして、灰も捨てたのか?
計画がやや崩れたが、大丈夫だ。普通のゴミが十一袋分もあるし、段ボールは開けられないくらいガッチリ、ガムテで塞げば問題ない。
硝子戸を全開にし、玄関灯を点けて自室に戻った。
エアコンの風の温かさで、寒さに強張っていた体がほぐれる。
そのまま布団に潜ろうとして、動きを止めた。
虫地獄だよ、蟲! 地! 獄!
今、このベッド! ダメ! ゼッタイ!
ガムテープを手にとり、一番上の箱の蓋に貼り付けた。
蓋の継ぎ目三か所をびっちり固定。箱を横倒しにして、さらに回転させ、底面を上に向ける。回転の途中で底が抜けるかと思ったが、しっかり手で押さえていたからか、少し開きかけただけで済んだ。底面も上面同様、びっちり固定してから、タンスの前に置く。
同様にして計八個、密林の通販段ボールをガムテで封印した。その上にゴミ袋十一個分のゴミを積む。
ゴミの中から潰れた段ボール箱を引きずり出し、ママさんダンプの要領で、ゴミを押入れ前の尿ペット群の傍に寄せた。細かいゴミや綿埃、虫のパーツ関係は残ったが、床に敷いたカーペットが見え、ドアが全開になる。
両手にひとつずつゴミ袋を持って階段を降りた。
片付いていなければ到底できない芸当だ。メイドさんは、ちゃんと先を見越して掃除してくれてたんだな。オレの為に。
なんて気がきくイイ女なんだろう。ババアと後妻と真穂と藍に、爪の垢を煎じて飲ませてやりてぇ。
すっかり暗くなった庭に出て、玄関から漏れる灯を頼りに蔵の前……今朝、ゴミ山があった辺りに両手の荷物を置いた。息が上がり、背中が熱くなっている。
すぐに自室にとって返し、ゴミを搬出する事、五往復。
ふくらはぎがパンパンになり、膝はガクガク、手が寒さ以外の何かで震える。
玄関脇の壁にもたれ、深呼吸して息を整えようとしたが、苦しくなってマスクを外した。途端に冷たい空気が気道に流れ込み、激しく咳込む。
「優一さん、大丈夫ですか?」