■汚屋敷の跡取り-60.被疑者(2015年03月21日UP)

 ふと、ジジイとオヤジには、座布団がない事に気が付いた。
 この扱い、ムネノリ君の態度、これはつまり……
 「豊一(とよかず)の嫁は、儂が埋めた。開かずの間の床下に死体を埋めた」
 証人が互いに顔を見合わせてざわつき、ババアが顔を袖で覆って泣きだす。
 米治叔父さんは、険しい表情でジジイを見据えているが、分家の嫁とツネちゃんは「あぁやっぱりね」と言う顔をしていた。
 マー君は、ジジイとオヤジを見下した目で見ている。
 ムネノリ君は、オヤジにも黒山羊を向け、同じ質問をした。
 「嫁は、俺が折檻したら勝手に死んだ」
 座の空気が凍りつき、ババアの嗚咽と住職の念仏だけが、物のなくなった仏間に響いた。
 「山端豊一に質問します。何故、自分の妻を殺したのですか。理由と殺害方法について、包み隠さず、嘘偽りなく答えなさい」
 「躾だ、躾! 家事もまともにできん低能の分際で、生意気な口利くバカ女が全部悪いんだ。あんなもん自業自得だ。
 俺に口応えしやがるのが悪いんだ! ガミガミうるせーわ、物を粗末にするわで、全く躾がなっとらんから折檻してやったら、勝手にくたばりやがったんだよ。嫁に来てからずっと、服を脱ぎ散らかすなだの、物を片付けろだの文句ばっかり一丁前で、碌に掃除もしやがらねぇから、躾の為に折檻してやったんだ。
 ちょっと傷んだくらいで食い物をポイポイ捨てて粗末にするし、物もちょっと壊れたくらいで捨てやがるから、罰が当たったんだろうよ。家事なんてくだらん雑事なんぞ、嫁が全部するもんなんだ。それすら満足にできない癖に口だけは達者。ハズレのバカ雌掴まされて、こちとら大迷惑だったんだよ。
 跡取りを産んだから、お情けで家に置いてやってたが、優一が居なけりゃあんなクズ嫁、とっとと追い出して慰謝料貰ってた所だ。そしたらこんな面倒な事にならなかったのに。
 なぁ、駐在さんよぉ、俺の稼ぎをアテにして、なんもしない寄生虫女にタカられてた俺の方が、被害者なんだよ。くたばってなきゃ、結婚詐欺で出るとこ出たいくらいなんだよ。
 躾の為にちょっと殴っだけで、嫁が勝手にタンスに頭ぶつけて、勝手に死んだだけだから、俺は何も悪くないんだ。なっそうだろ?」
 オヤジは、口が勝手に動いて真実を告げるのをどうする事も出来ず、一同に縋るような目を向け、最後に駐在さんに視線を定めた。
 ……吐き気がする。

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