■汚屋敷の跡取り-25.フードコート(2015年03月21日UP)
別に何もいらねーって……いや、ある、あった。
「いや、あの、リモコン……」
「リモコン? 何の?」
「いや、じゃなくって、でっ……電! 池!」
「電池? サイズは?」
「えっ? いや……あの……」
知るかよ。
「リモコンの電池? 単三だろうけど、たまに、単四とか、ボタン電池の機種もあるしなぁ……」
じゃあ、それ全種類買って来い。
「あ、でも、ゆうちゃんちにいっぱいあるって、言ってたような気がする」
何だその不確定情報。どこソースだよ。
「電池の事は後でケンちゃん達に聞いてみよう。それよりゆうちゃん、朝、食ってないんだろ? 腹減ってない? 昼、何食べたい?」
「………………」
メニューもなしで何言ってんだよ。
「ん? あ、ちょっと待って」
マー君が急に立ち止まり、コートの内ポケットから、ケータイを取り出して喋りだした。
「……あぁ、ケンちゃん。お疲れ様。今、駐車場? …………。うん。こっちも今、終わったとこ。…………。真穂ちゃんにも言っといてくれる? じゃ、また後で」
オレ、置いてけぼり。
「ケンちゃん今こっち着いたって。先にフードコートに行っとこう」
マー君はオレの意向を確認せず、どんどん歩きだした。オレはコートのベルトから手を離さず、その後に続いた。
勝手に決めやがって。
昼時だからか、フードコートは平日にも関わらず、人でいっぱいだった。
親子連れが多く、ガキがギャーギャーうるさい。あいつら、小学生じゃねーか。学校はどうし……冬休みか。それでガキが多いのか。面倒臭え。
ソースが焦げる匂いと、安っぽい油の臭いが漂うフードコートの入り口近くで、エリアを囲む柵にもたれて様子を伺う。
空いてる席ねーじゃん。
「ゆうちゃん、何がいい?」
オレはカウンターの上の看板タイプのメニューに目を遣った。
お好み焼き、タコ焼、焼きソバ、ハンバーガー、うどん、ソバ、ラーメン、カレー、ホットドッグ、フランクフルト、ソフトクリーム、ポップコーン……
安物のジャンクフードばっかじゃねーか。
「ゆうちゃん、アレルギーで食べられない物ってある? ソバとか大丈夫?」
「いや、別に」
こいつ、オレにソバを食わす気か? 今、ソバの気分じゃねーんだよ。
「じゃ、何でも大丈夫だな。行こう」
マー君はそう言ってエリアに入った。
慌ててオレも後を追う。
賢治達を待ってるんじゃなかったのかよ。
マー君は迷わず、夫婦と小学生の子供二人という家族連れの席に向かって行く。家族連れが荷物とトレーを持って立ち上がったところで、丁度マー君が着いた。
ガキ共の食べこぼしでテーブルはベタベタだった。
トレーがあるのに、何でここまで汚れるんだよ。これだからガキは……つーか、マー君も、店員が拭くまで待てよ。
いつの間に取っていたのか、マー君は、紙ナプキンでわしゃわしゃと、テーブルを拭いている。
何で客がそんな事してんだよ。店員呼んで拭かせろよ。
「ゆうちゃん、ここで待っててくれる?」
「………………」
「勝手にウロチョロしたら……わかってるよね?」
マー君は、ニッコリ笑って念押しすると、カウンターに向かった。途中でゴミ箱に紙ナプキンを投入する。
順番待ちの列に並んだマー君は、ケータイで誰かと話し始めた。通話はすぐに終わり、後は暇そうにボーっと突っ立っている。
そんなマー君を周囲の客がチラ見する。
矢田山市(やだやまし)も田舎だから、外人が珍しいのか?
血筋で言えば、ほぼ日之本帝国人の筈なのに、巴(ともえ)家の三つ子は何故か、外人顔だった。
「あの外人さん、超かっこいい」
「写メってマホちゃんとナツミちゃんにも教えてあげよっか?」
「ダメだって、そんなの盗撮じゃん」
「そっかー。バレたらヤバいよねー。見るだけにしとこっかー」
部活帰りなのか、隣の席で制服姿のJK達が、ハンバーガーを食べながらヒソヒソ喋っている。
ビッチ共が。イケメンだったら何でもいいのかよ。
「あっ、居た居た、あそこー」
真穂のキンキン声に、オレは振り向いた。
24.靴←前
次→26.セルフサービス
↑ページトップへ↑