■汚屋敷の跡取り-26.セルフサービス(2015年03月21日UP)

 賢治と真穂は、フードコートに入って来たところだった。そのまま真っ直ぐ、カウンターのマー君の方へ歩いて行く。デカイ上によく目立つ。便利な目印だからな。
 三人は料理の載ったトレーを持ってオレの所に戻って来た。
 「ゆうちゃんは、徹夜で掃除頑張ったから、ゴージャスにモダン焼きな」
 マー君が、オレの前に問答無用でトレーを置いた。飲み物は烏龍茶だった。
 マー君は焼きソバと珈琲、賢治はイカ玉とコーラ、真穂は月見うどんで飲み物なしだった。
 「あれ? えーッ!? 真穂ちゃん?」
 「菜摘(なつみ)ちゃんと旅行じゃなかったの?」
 「あー、それがねー、事情があって、私だけキャンセルして戻ってきたんだー」
 真穂が隣のJK達と話し始めた。
 お前ら知り合いかよ。世間の狭い田舎者め。
 つか、真穂の奴、高校生の分際で旅行とか、アタマおかしーんじゃねーの? 中止になって正解だよ。
 「今、丁度、真穂ちゃん達の事、話してたんだよー」
 「え? 何? 何? 聞かせてー?」
 「あー……うん、あのね、そっちの人達、誰? 真穂ちゃんの……」
 「お兄ちゃんと従兄だよ」
 「えーッ? ウッソ!? マジで!?」
 「すごーい!」
 「どこの国の人? ハーフ? 紹介して!」
 マジうるせー。
 真穂がこちらを見た。
 マー君と賢治は、一瞬、顔を見合わせ、無言で頷いた。
 「ウチの長兄の優一と、次兄の賢治、従兄の政治(まさはる)。全員、日之本帝国人です」
 真穂は立ち上がって背筋を伸ばし、一人ずつ掌で示しながら紹介して、着席した。
 「真穂がいつもお世話になっています」
 「オレ、ハーフじゃなくて八分の一で、ほぼ日之本帝国人なんだけどね」
 ……えっ? オレも何か言わなきゃいけなかったのか? ゆとり女に何を語ればよかったの? 
 真穂は何かわかったような目で友人達を見て、しきりに頷き、うどんをすすり始めた。
 オレもお好み焼き+焼きソバと言う炭水化物の塊を口に運んだ。焦げたソースが香ばしい。美味くはないがマズくもない。
 ババアは粉モノ全般を「代用食」と呼んで作らなかったから、超久し振りだった。戦時中の何か忌まわしい記憶がそうさせるのだろう。だが、偶には米以外もいいもんだ。腹が減っていたから余計にそう思うのかもしれない。
 JKがキラキラした目でマー君に話し掛けている。
 「焼きソバ、お好きなんですか?」
 「ん〜……普通かなー。でもこう言う所のって、偶にはいいよね。お祭りっぽくて」
 「あー、わかりますー」
 「縁日のと同じ味でー、テンション上がるっていうかー」
 「家で作った時のコレジャナイ感」
 「あるあるー!」
 何でマー君は年齢が半分くらいの女に話を合わせられるんだ? 普通、共通の話題なんかねーし、ヘタしたら通報されるだろう。何、キャッキャウフフしてんだよ。
 ※但し、イケメンに限るっての、リアルで見たの初めてだぞ、オイ。
 オレは極力関わり合いにならないようにモダン焼きに集中する事にした。
 賢治と真穂も黙々と食事をしている。こいつらも朝飯抜きだったのか? 
 先に食べ終わったJK達が席を立ちながら話し掛けてきた。
 「真穂ちゃん、この後、暇? 一緒にどっか行く?」
 「ごめーん、今、買い出しの途中ー。お祖母ちゃんが足、怪我しちゃってー、家のバリアフリー化? 介護リフォーム的な事しててー……退院までに終わらせなきゃでー……」
 「えーっ? マジ? かわいそー……」
 「超大変じゃん」
 「あー、それで旅行キャンセルになったんだー」
 「何か手伝える事、ある?」
 「ありがと。でも多分なんとかなるよー。親戚総出でやってるから」
 「真穂ちゃん、いいお友達がいてよかったな」
 マー君が笑顔を向けると、JK達は奇声を上げた。
 バカ騒ぎすんなよカス。他の客に迷惑だろうが。
 「暫くバタバタしてるから、メールのレスも遅くなっちゃうけど、ごめんね?」
 「いいよいいよ。手伝い必要になったらいつでも呼んでー」
 「うん、ありがとー」
 「みんなも怪我には気を付けるんだよ」
 JK達はマー君にイイお返事をして去って行った。その席はすぐに老夫婦で埋まった。
 静かになった途端、どっと疲れが押し寄せる。お前ら台風か。
 「真穂ちゃん、いいの買えた?」
 「うん、ばっちり。サービスカウンターに預けてあるよ」
 「真穂、買い忘れはないか?」
 「うん。ちゃんとリスト作って来たから」
 「ゆうちゃんが、リモコンの電池欲しいんだって。それっぽいのありそう?」
 やっとマー君が電池の在庫を確認した。
 JKに浮かれて忘れてんじゃねーよロリコン。
 「電池? いっぱい出てきたよ。腐食とか期限切れとかで、かなり捨てたけど、使えるのだけでも売る程ある。サイズも全種類ある」
 「凄いな……雑貨屋でもしたら? 競合相手いないから楽勝じゃない?」
 「やだよ。しがらみが多いだけで、絶対! 儲からないから」
 「ふーん。まぁとにかく電池は買わなくてもいいな。じゃ、帰ろう」
 三人はトレーを持って一斉に立ち上がった。
 オレも慌てて席を立つ。そのまま出ようとして、マー君に呼び止められた。
 「ゆうちゃん、ここ、セルフだから」
 「は?」
 「セルフサービスだから、その人件費分、安いんだよ。トレーを返却口に持ってって」
 年下の分際でオレに命令しやがって。
 トレーをブン投げてやろうかと思ったが、耐えた。他の客に警備員とか呼ばれでもしたら、家の恥だ。
 無言でトレーを運び、前の奴の真似をして返却した。
 真穂が買ったものは、数組のカーテンと座布団、こたつ布団一式だった。
 サービスカウンターで名前を告げ、レシートを見せて受け取り、四人で分担して車まで運んだ。リアルにも、道具の「預かり所」ってあるんだな。ヘェーヘェーヘェー。
 カーテンと座布団をワンボックス、こたつ布団を軽トラに積んで帰路に就いた。

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