■汚屋敷の跡取り-33.炎の魔法(2015年03月21日UP)

 【12月29日午前2時21分現在……床可視率53%、堆積層なし、棚類の内容物なし】

 誰にも起こされる事なく、自主的に目を覚ました。
 何故か体中が痛く、耳が痛痒い。だが、不思議と気分はよかった。
 ぎくしゃくする関節を無理矢理動かして、起き上がる。
 また、ドアノブにメモが貼ってあった。

 昼飯は台所に置いてある。by政治(まさはる)

 昨日と同じ、流麗且つ力強い油性マジックの文字だった。
 窓と網戸を開け、雨戸を開ける。
 雪は止んでいたが、畑には一メートル近く積もっていた。どんよりとした厚い雲の下、見渡す限り白銀の世界。
 ウチの庭だけは雪がない。
 庭にはメイドさんとムネノリ君、三枝(さえぐさ)、藍が居た。
 ムネノリ君が、杖を引きずりながらゴミ山の周りを歩いている。
 一周して立ち止まり、杖の黒山羊をゴミ山に向け、一言、二言何か言った。
 蔵の前のゴミ山が、闇に包まれた。
 杖を引きずった通りの歪(いびつ)な円に囲まれた範囲が墨を流したような漆黒に染まる。
 ムネノリ君がもう一度、何か言った。
 闇の領域に白い炎が現れ、内部で渦を巻き、ゴミの山を呑みこんで消えた。
 闇もまた、現れた時と同様、唐突に消える。
 後には、白い灰だけが残った。
 ムネノリ君の横に立つ三枝が向かいの畑に何か言うと、雪の塊が飛んで来た。
 こいつも丸洗い魔法が使えるのか。
 溶けた雪が灰を溶かし込み、宙を舞う。
 メイドさんが段ボールに透明ゴミ袋を被せると、水はその中に灰を吐き出した。灰でいっぱいになった袋をメイドさんが交換すると、水はまた、灰を排出する。
 ゴミ山は、45L透明ゴミ袋三杯分の灰になっていた。
 メイドさんは灰袋を持って倉庫の方に歩いて行く。
 「ゆうちゃん、やっと起きたー! もう三時過ぎよー? ご飯は? 食べたの?」
 ブルーシートの上でガラクタの仕分け作業をしていた藍が、オレに気付いた。
 三時過ぎ……十二時間以上寝てたのか。
 オレは無言で窓を閉めた。
 痛む体を引きずって、まずはトイレへ。
 台所のテーブルには、親子丼とおでんと味噌汁が置いてあった。
 分家の嫁の料理は、メイドさんには負けるが、ババアには勝っていた。オフクロの飯がマズかった記憶はない。
 中高生の頃に食った後妻の飯も、美味くはなかったが、特段マズくもなかった。
 昨日のフードコートのモダン焼きも、ババアの飯よりはマシだった。もしかして、ババアは料理が下手なんじゃないのか? 
 過去に食った料理の味を思い出しながら、昼飯を食べ終えた。
 食器をシンクに置いて、部屋に戻ろうと方向転換する。
 「うっうわあぁあぁぁぁッ!」
 いつの間にか背後に双羽(ふたば)隊長が立っていた。
 思わず横に飛退く。
 隊長は俺に一瞥もくれず、シンクに近付いた。何か呟きながら蛇口をひねる。
 水は下に流れず宙に浮き、隊長の横に溜まっていった。風呂桶一杯分くらいの塊ができたところで水を止める。
 魔女でも水道、使うんだな。
 「自分の手で洗わないのですか?」
 「いっ……いや……あの……なっ何を……でしょう?」
 咎めるような口調に怯えながら、何とか質問を発する事が出来た。
 隊長、肝心な部分を略さないで下さい。わかりません。

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