■汚屋敷の跡取り-31.貯金箱(2015年03月21日UP)

 学習机の引き出しの一番上の段を開ける。
 文房具がゴチャゴチャぎっしり入っていた。ここはいいか。引かれる物は何もない。
 二段目も普通だった。
 文具の他に小学生時代に集めていたメンコとお菓子のおまけのシールが入っていた。これはまぁ、少年時代の思い出っつー事で、許される範囲内だろ。
 三段目……一番下の大きい段には、ゲーム機本体とケーブル類が突っ込んであった。ゲームソフトを捨てて無用の長物になったハードも全て捨てる。
 もう、何も惜しくない。
 今のオレにはメイドさんが居る。
 全ては本物のメイドさんの為に。
 三段目の奥から、五百円玉で十万円貯まる貯金箱が出てきた。
 ずっしりとした重量感がある。満タンではないが、それなりの額が貯まっているようだ。
 すっかり忘れていた。
 お年玉を貰っても、オヤジに取り上げられるから、いつもババアに小遣いをせびっていた。
 農作業の手伝いをしてからねだると、ババアは「ゆうちゃん偉いね。いい子にはお小遣いあげよう」と、五百円玉を握らせてくれた。
 十万円貯めて、街の探偵にオフクロ探しの依頼を出すつもりだった。
 失踪から七年経ってオヤジが手続きしたら、オフクロは死んだ事になった。オヤジはその直後に再婚した。
 三十年前に行方不明になった人物でも、探偵なら見つけられるんだろうか? 
 ムネノリ君は、家を掃除すれば見つかると言っていた。
 あれは、王族の権力でオフクロが見つかるまで探すって言う、交換条件だったのかもな。もしかすると、オフクロの写真とか髪の毛とかがあれば、魔法でパッと居場所がわかるから、オフクロのアルバムを探せって事だったのかもしれない。
 他の部屋を掃除してる奴らは、写真を見つけられただろうか。
 ……いや、面識ねーんだから、見てもわかんねーか。ハハッ。
 オレは引き出しを閉めて立ち上がった。文房具は後で整理しよう。
 一日振りにパソコンを起ち上げた。
 パスワードを入力して少し待つと、画面いっぱいに際どいメイド服姿の美少女イラストが表示された。プロパティで、肉色の壁紙を青無地に変更した。
 デスクトップから、エロゲのショートカットを削除する。いちいち確認メッセージが表示されてウザい。アンインストールは時間が掛かるから後回しだ。
 フォルダに貯めた虹エロ画像と十八禁動画のコレクションを一括削除する。
 ウィンドウが表示され、所要時間が出た。この「所要時間」はアテにならないので放置して、パソコンデスクの下に着手する。
 デスク下の棚には、アレな同人ソフトとエロゲの資料集とオナホとメモリとケーブル類。
 ケーブル以外、全捨て。
 オレはパーカーを着て、第二陣を玄関まで運び、居間に向かった。
 履いている靴下とゴム手袋を脱ぎ、別な靴下を三枚重ね履きした。
 汗かいたし、埃被ったし、服はパンツ以外あるし、やっぱり後で風呂に入ろう。
 脱いだ靴下と着替えを持って脱衣場に行き、靴下は洗濯機に、着替えは籠に入れた。
 玄関に行く前にトイレに寄る。
 捨てている最中に、体が冷えて行きたくなったら、困るからな。
 靴下三枚重ねでは、靴が履けなかった。靴紐を緩めて結び直し、積み上げたゴミを前にゴム手袋をはめ、気合いを入れ直す。
 硝子戸を開けると、吹雪だった。

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