■汚屋敷の跡取り-27.ありがとう(2015年03月21日UP)

 どうやら、またしても寝落ちしていたらしい。
 マー君に小突き起こされた所は、ウチの庭だった。
 倉庫の前で、メイドさんとツネちゃんが仕分け作業をしている。
 蔵の前には、オレが築き上げたのより大きなゴミ山があり、少し離れた所には灰袋の小山もできていた。朽ちて歪んだ家具混じりのゴミ山の前に、ムネノリ君と三枝が居た。
 庭に面した南側の雨戸が開いているのを見たのは初めてだった。
 初めて見る縁側が、傾きかけた冬の日差しを受けて輝いている。
 障子は、枠だけになっていた。そこから見える部屋は空っぽで、古びた畳があるだけだ。
 縁側から中を覗くと、空っぽの床の間の隣に仏壇が見えた。壁の一部が凹んでいて、そこにぴったり嵌め込まれている。観音開きは閉まっていて、位牌等は見えない。
 ここ、仏間だったのか……
 生まれて三十七年間、ずっと住んでて知らなかった。
 しかもこの畳、腐ってんじゃねーか。どうなってんだこの家は? 
 法事は寺でやってたからいいけど、仏壇放置プレイって、御先祖様を粗末にし過ぎじゃね? 
 「ゆうちゃん、荷物の搬入、手伝ってくれるよな? ん?」
 マー君がオレの肩を叩いた。
 初めて見る仏間に夢中になっていたオレは、ちびりそうなくらい驚いた。
 ワンボックスの荷台が開けられ、真穂がでかい紙袋を降ろしている。賢治は、こたつ布団の包みを抱えて玄関に入って行く所だった。
 オレは、マー君に渡されたカーテンの袋を持って、玄関に入った。
 ……靴が……脱げない。
 足の動きだけで脱ごうとしたが、無理だった。靴紐をきつく結び過ぎたかも知れん。
 上がり框に荷物を置いて、手で紐を解いた。懐かしい感覚だった。
 「畳替えの後で設置するから、居間に置くだけでいいよ」
 マー君に言われ、廊下の奥に向かう。靴から解放された足の裏に床の冷たさが凍みた。
 「外から帰ったんだから手洗いしてよ。それと、夕飯は六時に分家に集合だから」
 「いや、そんな事より、電池」
 オレが手を出すと、真穂は荷物を整理しながら答えた。
 「隣の部屋にあるから、好きなの持ってって。余ったら元の場所に戻しといて」
 カーテンを置いて居間を出て行くオレの背中に、真穂がポンと言葉を投げかけた。
 「ありがと」
 「は?」
 「荷物運び、手伝ってくれてありがと」
 フリーズするオレ。
 何言ってんだ? こいつ。
 オレはマー君に脅されて運ばされただけで、こいつの為にやったんじゃないのに。何勘違いしてんだ? 
 会話ってのはキャッチボールなんだよ。取れない球を投げて寄越すな。オレは球拾いなんかしねーからな。
 無言で隣室の襖を開けた。

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