■黒い白百合 (くろいしらゆり)-64.一方通行(2016年06月19日UP)

 婚約者は、殺人教唆の罪を犯していない。いや、それどころか、この一連の事件が自分の為だと言うことすら、知らないだろう。

 ……こんなのドヤ顔で報告されたら、黒井さんが自責の念に駆られて自殺しかねないよな。

 「あんたさっき、自分を便利な道具扱いする奴がイヤや言うてたやんな?」
 「あぁ。あんたらもそうやろ。視えん奴らに魔物や幽霊のセンサー代わりにされて、ムカつくやろ?」
 同意を求められたが、見鬼の刑事は二人ともそれには答えない。
 「自分がされてイヤなこと、なんですんの? あのコら六人、魔術の道具言うか、素材にしたんは何で?」
 「は? 能なしの半視力オンナが劣化する前に、有効活用してやっただけやんか。俺が使(つこ)て何が悪いんや」

 ……有罪になるのは兎も角、これ……刑務所に入れたところで、どこまで矯正できるんだろう?

 三千院は目眩がした。
 嵐山課長が、自分のこめかみを押さえて話を続ける。
 「えーっと……その能なしの半視力オンナと結婚する気ぃなんや? それで、普通の生活できるつもりなんや?」
 「は? そんなん普通やろ。見鬼も魔女もこの国、殆ど居らんのやから」
 「あんたが殺した白神さんも、見鬼の婚約者が居ってやねんけど(いらっしゃるんだけど)、自分と同(おんな)じ立場の他人の幸せ壊すんは、構へんのん?」
 「は? そんなん知らんがな。婚約者が見鬼とか、今知ったし」
 「別にこの国にこだわらんでも、外国行ったら、魔女も見鬼もよぉけ居るやん」
 「は? そんなコトバ通じん奴いらんゎ」
 三千院の非難を籠めた目に気付かないのか、嵐山の質問の意図がわからないのか、新月は素っ気なく答えた。

 ……少なくとも俺は、お前のコトバの通じなさがイヤで、お前がいらん子だけどな。周りの人が道具扱いしたから、こうなったのか。こんな子だから、相応に道具扱いされてたのか、どっちだ?

 三千院は、珍獣を見る目で新月を見た。
 「んー……まぁ、何年掛かるかわからんけど、お務め終わる頃には、あんたが思てるような『普通の生活』は難しなる思うで」
 「は? 小百合が居るやろ。そら、経年劣化して子供は難しなるやろけど、怪我は治ってるやろ。しゃあないから、ヨメにもろたるで? 俺、心広いし」
 「えーっと……頼んでもせんのに『お前の為にやったった』言うていらんコトする奴、普通はお断りやで? しかもあんた、殺人やら何やら、前科付くねんで? 待っとってもらえる思てんの?」
 「は? そんなん普通、待つやろ。小百合は俺にホレてるし、俺は小百合の為にわざわざ手ぇ汚したってんで? 待てへんワケないやろ」

 ……黒井さん、治療のついでに整形して遠くに引越して、全力で逃げた方がよさそうだな……守り給い、幸い給い……

 三千院は未来のストーカー事件を想像し、暗澹たる思いで黒井小百合への祈りの言葉を胸の内に繰り返した。

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