■黒い白百合 (くろいしらゆり)-21.実行条件(2016年06月19日UP)

 「おっ、こないだはどうも」
 大原がにこやかに手を挙げた。第一発見者の二人は、軽く会釈を返した。
 「お蔭さんで、捜査に進展がありましたゎ。おおきになぁ」
 「犯人、わかったんですか?」
 巴(ともえ)が眼鏡を押し上げながら聞く。風邪は治ったらしく、今日はマスクをしていない。
 三千院は、小さく首を振った。
 ドラマや小説なら、第一発見者が怪しいところだ。
 「いえ、まだそこまでは……お二人とも、随分、遅くまで残ってるんですね」
 「卒業制作の起動実験とか、色々ありますので」
 「卒業制作て、何、(こしら)えてますのん?」
 「僕は水中探査ロボです」
 「私、災害救助ロボ」
 「いやぁ、二人とも、エライもん拵えてはるんやなぁ」
 大原が目を丸くし、純粋に感心する。二人は照れて笑った。

 白神(しらかみ)がふと真顔に戻り、三千院に聞いた。
 「刑事さん、霊感ある人って、アタリを引きやすかったりするんですか?」
 「アタリ?」
 「江田さんもそうなんですけど、巴君って、去年もこう言うの、あったんですよね」
 「あれは別に憑かれてないし……」
 巴が眉間に皺を寄せる。
 「去年、何がありましてん? 聞かしてもろて、宜しいか?」
 「……去年、舞田寿港(まいたずこう)で実際に水中探査をしたら、乗用車が沈んでるのを見つけちゃったんです。詳しいことは、舞田寿署で聞いて下さい」
 あまり思い出したくないものを発見したようだ。巴の顔が暗い。
 「アタリ……ね。別にそう言うのは、ないと思うよ。あまり気にしないのが一番だよ」
 「……ありがとうございます。江田さん、早く元に戻れるといいですね」
 三千院は答えていいものか迷い、大原を見た。
 大原は目顔で三千院を黙らせた。

 「あ、せや、お二人さん、魔道学部に知り合い、居てはらへん?」
 「弟が、帝大の魔道学部ですけど……?」
 「私は、特に居ません。巴君の弟さんには、会ったことありますけど」
 古都と帝都は、新幹線で約二時間半。飛行機ならもっと早い。
 「弟さんが、どの系統を研究してるか、わかりますか?」
 「えーっと……よくわかりません。なんとかの白鳥って、羽が片方、手になってるペンダント持ってますけど」
 巴が首を傾げながら答える。
 三千院は、腹の底が熱くなるのを感じた。震えを押し殺し、質問を重ねる。
 「弟さんは、実際に魔法が使える……魔力を持つ魔法使い……この国の大学で学ぶ必要がないレベルの魔法使いなんですね?」
 「えっ、そうなんですか? まぁ、あの、曽祖母(そうそぼ)が外国人……魔女で、先祖返りって言うか、あいつ一人だけ魔力持ってますけど、うーん……学費の無駄?」
 巴は、干草色の髪をいじりながら答えた。染色や脱色ではなく、地毛らしい。
 よく見ると、瞳は青みがかった灰色で、顔立ちも日之本人離れしている。
 「ま、まぁ学費はともかく、弟さんがどんな術を使えるか、わかりませんか?」
 「実際治る【痛いの痛いの飛んでけー】と、他は……本人が、魔力の制御がちゃんとできないって言ってましたから、大したことは、できないんじゃありませんか?」
 「弟さんは、今、どちらに?」
 「帝都の実家ですけど、弟が、江田さんと何か関係あるんですか?」
 当然の質問が返ってきた。

 巴兄弟を被疑者に含めようとしている件は、伏せて答える。
 「弟さんは、【舞い降りる白鳥】と言う系統の、呪いの解除や術の解析をする術が、使える筈なんです。江田さんに掛けられた術が何なのか、捜査にご協力いただけないか、お願いしてもらえませんか?」
 「無理ですよ。あいつ、心臓悪くて、家と病院と学校以外の場所には、殆ど行ったことないんです。ずっと看護師さんに付き添って貰ってますし、こんな遠く、絶対無理です」
 巴は即答した。
 「えっ、でも、今、白神さんは……」
 「あ、あの、私達、院出て、就職決まったら、結婚するんです。実家同士近くて、お正月に家族の顔合わせして、その時に……」
 白神が頬を染めた。大原が相好(そうごう)を崩す。
 「へぇ〜そらどうも、おめでとさん。男前と別嬪(べっぴん)さんで、お似合いのえぇ夫婦やなぁ」
 「えっ、やっ、もー、あはは……」
 白神はますます頬を紅潮させ、俯いた。

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