■黒い白百合 (くろいしらゆり)-46.人質六人(2016年06月19日UP)
捜索の準備と並行して、魔物対策の準備と打ち合わせを行う。
魔道犯罪対策課の三名と、一課から橘警部、二本松、神楽岡、河原、中大路が出る。合計八名。
突入直前に魔道課の三人が呪文を唱え、効力を発動させる。
「三人……か。まぁ、ちょっと大きいけど、入口はそんな広ないやろしな」
「効果時間も、安モンやから、そない
鴨川と嵐山課長が、小声で遣り取りする。
それを耳にした橘の声が、幽かに震えた。
「
「三十秒くらいやね」
「さ……三十……?」
橘の声が驚きに裏返る。
嵐山が、手順を説明する。
「その間に接敵して、取り押さえて、呪文唱えて、色々呪符貼るんですゎ」
「しかも、女の子ぉの体、傷いけんように……や」
「なんスか、その無理ゲー……」
河原が嘆息し、中大路が弱音を吐いた。
「女の子ぉらは、体、盗られた被害者やねんで? 傷いけたら、誰が医者代出すんや」
「医者代云々より、みな、嫁入り前の娘さんばっかりやで。顔にでも傷いけてみぃ、どエライことになるわぃ」
二本松と神楽岡が、新人に畳みかける。
中大路は、尚も渋る。
「せやけど、そのコらの中身て、バケモンなんスよね?」
「まぁ、言うたら、人質と一緒やね」
「そんなん言うたかて、人質が、襲ってくるんスよね?」
嵐山は、残念な物を見る目で、中大路を見た。
三千院が、助け船を出す。
「命令がなければ、待機状態で、ぼーっとしてるかもしれませんよ?」
「えっ? ホンマですか?」
途端に中大路の顔が明るくなる。
「え……えぇ、まぁ、多分。予め『侵入者を殺せ』みたいな命令がされていなければ、じっとしてる筈ですよ。術で縛られてて、魔物は自分の意思では動けませんから」
「それでも、五分五分か……」
二本松が唸った。
「平日の昼間やから、出勤してるわなぁ。会社で犯人の身柄押えて、命令できんようにしてから、自宅を捜索か」
「流石に、会社には魔法の道具は何も置いてへん……と、思いたい」
「会社の人らを巻き込んでまでは、魔法使わへん……と、思いたい」
鴨川の呟きを河原が真似た。
三千院は帰宅後、大学時代と、魔道犯罪対策課の資料を読み返した。
呪符の力を発動させる呪文を復習する。
魔力を持つ者ならば、呪符がなくとも、力ある言葉を唱えるだけで発動する術ばかりだ。
三千院には魔力がない。
魔力の水晶を使えば、術を行使できるが、発音を少しでも誤れば発動しない。
特に、魔法を一種類、一度だけ無効化する【消魔符】の失敗は、絶対に許されない。
日之本語に訳すと、「
確実に呪符を発効させる為、装備にある呪文を繰り返し、繰り返し、自分に浸みこませるように唱えた。