■黒い白百合 (くろいしらゆり)-44.金喰い虫(2016年06月19日UP)

 今回の事件では、【(ただ)しき燭台(しょくだい)】の使用を、証拠品の粘土板で申請している。結果が出れば、少なくとも、作成者の顔はわかる。
 だが、それを待つ時間的余裕はない。
 「魔道課さんは、今まで、どなして人間の犯人捕まえとったんですか?」
 「一人も捕まえとりません」
 「何やて?」
 合同捜査本部長・橘警部の質問に、魔道犯罪対策課長・嵐山が淡々と答える。
 「自分で呼び出した魔物に食べられてもたり、魔力の代わりに体力を使う呪具に生気吸い取られ過ぎて、干からびとったりで、あれですゎ。生きた状態の犯人は、まだ、ちょっと……一応、魔法使い用の手錠は、配備されてるんやけどねぇ」
 「ちょっと待って、それ、あれか? 今までの事件、みな、踏み込んだ時には、被疑者死んでもとったんか?」
 「はい。術者が()うなって、術や魔物が暴走して、発覚した事件ばっかりで……」
 嵐山課長が目を伏せる。
 「もっと(はよ)うにわかったら、犯人の家族やら、近所の人に、被害が出んと済んだんやけどね……今の装備と人員やと、ちょっと……」
 誰も何も言えず、身じろぎひとつしない。

 魔道課の鴨川が、沈黙を破った。
 「まぁ、今までは、呼び出してすぐ食われてまうような……魔力のない『なんちゃって魔法使い』ばっかりが相手やったんで」
 「今回の事件は、全然、毛色が(ちゃ)います。サンちゃんも、心して掛かるんやで?」
 「は……はい!」
 嵐山課長に念を押され、三千院は背筋を伸ばした。
 橘警部が不満を漏らす。
 「そんなもん相手に、何の装備もなしに捕り物するんか? 銃撃犯相手に、ジュラルミンの盾やら、防弾チョッキやらなしで、突撃かますんと一緒やで?」
 「防御の装備として一応、呪符の【不可視の盾(みえずのたて)】【魔除け】【消魔符】【吸魔符】があるんやけどねぇ」
 「それは、どんなもんなん?」
 嵐山課長の視線に促され、三千院が代わって、橘本部長に説明する。

 【不可視の盾(みえずのたて)】は、合言葉を言えば、一度だけ魔法・物理問わず攻撃を防ぐ見えない盾が展開する。但し、呪符に籠められた魔力よりも、弱い攻撃に限る。盾の大きさは、開いた折り畳み傘より一回り小さい程度だ。
 【魔除け】は、効果範囲内に魔物を寄せ付けない。範囲と強さは、呪符に籠められた魔力に拠る。
 【消魔符】は、近くで使われた魔法を一種類、一度だけ無効化する。無効化できるのは、呪符に籠められた魔力よりも、弱い術に限る。
 【吸魔符】は、この呪符を接触させている間、呪符の容量いっぱいまでは、相手の魔力を安全に消耗させられる。対になる【充魔符(じゅうまふ)】を作り、宝石類に貼っておくと、【吸魔符】で吸った魔力を充填できる。宝石類ならば【吸魔符】よりも容量が大きい為、ある程度、強い魔力を持つ相手にも、少ない枚数の呪符で対応できる。

 「これもまぁ、一枚がン十万からン百万するし、十枚ずつしかあらへんので、希望者を募って、言うんがえぇ思います」
 「あんたら、どんだけ金喰い虫やねん」
 橘警部が溜め息をつく。
 「そら、ここは科学文明の国やから、このテのもんが高(たこ)つくんは、仕方(しゃあ)ないんですゎ」
 嵐山課長が会議を締め括った。

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