■黒い白百合 (くろいしらゆり)-35.身代わり(2016年06月19日UP)
移動の車中で、ざっと事情を聞いた。
三日前の六月九日、サークル活動で帰りが遅くなった。忘れ物に気付き、取りに戻ったところで記憶が途切れている。
三千院達は三日前にもここに来ている。
江田の不在に気付き、代わりに二谷を固定した可能性が高い。
安堵の息をつき、古都大と同じ物を押収する。
校長が額の汗をハンカチで押さえながら、三千院に声を掛ける。
「ありがとうございます。あの、刑事さん、これ、学校に埋めた犯人は、まだそこらウロウロしてるんですよね?」
「はい。すみません。今、全力で捜査しています」
「犯人が、撤去されたことに気ぃ付いて、逆上して子供らに何かする……なんちゅうことは……」
「パトロールを増やしますので、何かありましたら、警察にご連絡下さい」
「犯人、魔法使いなんですよね? ウチの装備、普通の不審者にしか対応してへんのですけど……」
先日とは別の警備員が、不安を隠そうともせず、三千院達に縋るような目を向けた。対魔道士専門の警備会社でなければ、対応しきれない。
「もし、ここで不審者をみかけても、直接対応せず、警察にご連絡下さい」
「警察は、装備持ってはるんですか?」
「機密なので、細かいことまでは、お答えできません」
専門の警備会社より遥かに脆弱だ。
こんな情報が漏れれば、魔法の使える犯罪者が真っ先に潰しに来るだろう。
「もう何も居らん言うても、何や気色悪いですし、子供らのことも心配なんで、神主さん呼んで、お祓いしてもらおか思うんですけど、構いませんか?」
校長が、恐る恐る質問する。
「勿論、私のポケットマネーで、税金はビタイチ使いませんのやけど……」
「問題ありませんよ」
「ほな、しばらくは保護者に子供らの送り迎えもして貰います。刑事さん、早よ、捕まえて下さいね」
校長は、やや安堵した声で言った。
捜査本部に戻ると、川端東マンションに張り込んでいた
飯田、柴田、出口に、三千院が連れ出した
六人とも、同じ状況だ。
呪具(じゅぐ)を掘り出しただけでは、解呪されない。
備東には、身体が悪用された件は伏せ、六人を小会議室に移動させた。