■黒い白百合 (くろいしらゆり)-41.目撃情報(2016年06月19日UP)
翌日から、渦の中心付近での聞きこみを強化した。
一課が有力な証言を得て戻り、捜査本部が俄かに活気づく。
「えーっと、五階のおばちゃん、
「人違い言うことは、あらへんのか?」
「南田さんは、通院のついでに、はぎやをよぉ利用してはるそうで、店員の柴田詩乃花とも顔見知りなんやそうです」
「ほな、見間違いやないねんな?」
橘警部が、新人の中大路刑事に念を押す。
「南田さんは、夜中やったし、配達なワケあらへんし、知り合いでも尋ねて来はったんかもしれんけど、見間違いかも知れん、言うてはりました」
「夜中?」
「マンションのゴミ捨て場へ、ゴミ
「正確な日時は、わからんのか?」
橘が、辛抱強く新人刑事から情報を引き出す。
「推理サスペンスワイド劇場が、
五月十九日。
二十時頃までは、店長と二人で残業していた。
柴田詩乃花は、その翌日から行方がわからなくなっている。
「二時間ドラマ……晩の十時から十二時の、どの辺やったか、おばちゃん、言うてへんか?」
「第一の殺人が起きた後やったそうで、序盤ですね。その次の日には店に出てへんかって、二、三日しても見ぃひんから、店長にどっか具合でも悪いんか聞いたら、行方不明や、言われたそうで、心配してはりました」
橘警部が、次々に質問を浴びせる。
「その時、誰かと一緒やったか、誰の部屋へ行ったかは、おばちゃん、見てへんか?」
「CM終わる前に急いで帰ったんで、そこまでは見てへんそうです」
新人の中大路にしては、必要な情報を粗方聞きこんでいたが、報告はまだ苦手らしい。
警察三年目、刑事になって三カ月目の三千院は、中大路の報告に慎重に耳を傾けた。
どんな情報が必要で、何をどう聞いてどう報告すればいいのか。三千院も、まだよくわかっていない。
橘は逸る心を抑え、粘り強く聞き出す。
「で、そのおばちゃんは、その後、マンションかその周りで、柴田詩乃花を見た言うてたか?」
「いえ。見てへんそうです」
「まぁ、そんなおばちゃんやったら、行方不明て聞いた後に見とったら、店長さんに教えたげるやろからねぇ」
嵐山課長が言った。それを受け、神楽岡が頷く。
「常連と、よぉ知ってる店員やったら、
一課の調べでは、柴田詩乃花の家族、親族は全員、近郊の
大原が腕組みする。
「おばちゃんが見てへん時に出入りしたんか、ずっとそこに居るんか……」
「中身は魔物ですからね。能力によっては、魔法の【跳躍】が使えますよ」
魔術を使えば、誰にも見られることなく、知っている場所に瞬間移動できる。
この国では、【跳躍】を防ぐ結界を巡らせた場所は限られており、大抵の場所に移動可能だ。
魔法使いを含む窃盗団の報告も上がっているが、そちらは魔道犯罪対策課に要請がなく、通常の窃盗犯として処理されている。
鴨川が聞いた。
「サンちゃん、何の魔物かわからんか?」
「わかりません。支配可能な魔物は、術者の能力次第です」
「もし、柴田詩乃花を発見したとして、中身が正体不明の化けモンて……
捜査本部長の橘警部が、眉間に皺を寄せる。