■黒い白百合 (くろいしらゆり)-40.怪しい客(2016年06月19日UP)

 捜査一課の橘警部が、合同捜査本部の面々を見回した。
 「……と、まぁ、ウチのモンから、こんな報告があってんけどな。どな思う?」
 「そら、普通は、そのバイトの話持ち掛けたモンが、行方不明に噛んでる……と考えますわなぁ」
 鴨川が言わずもがなな調子で答える。
 「うん、まぁ、ウチもそな思て、話の出所(でどこ)、調べさしてもろたんや」
 「あ、なんや。もうわかってはるんかいな。橘さんも、お人が悪い」
 「うん、性格悪いねん。ごめんな。話持ち掛けたんは、コンビニの客らしい。まぁ、言うてもわかったんはそこまでで、その客が、どこの誰兵衛(だれべえ)言うんまでは、わからず仕舞(じま)いや」
 橘は、さして悪いとも思っていない口ぶりで続けた。
 「コンビニで一緒にレジ入っとったおばちゃんが、品出しでレジ出た時に、若い男の客が、一人になった備東安美利(びとうあみり)にこそっと言うてんの、聞いた言うてた」
 「若い男て……年寄りが若返りたぁて、おまじないすんのと(ちゃ)うかったんですか?」
 大原が、嵐山課長に問いをぶつける。
 「さぁ……単独犯かどうか、まだわからしませんし……」
 「入替え対象の身体は、最後に殺しますから、術者とは別ですよ」
 「ん? あぁ、さよか?」
 三千院が補足すると、大原はあっさり引き下がった。それに、単独犯とも限らない。

 橘警部が、魔道犯罪対策課の面々を見回し、念を押す。
 「そしたら、術が巧いこと行っても、結局、殺しは起きるんやな?」
 「術は、もう失敗なんじゃないかと思うんですけど、犯人の次の動きは、残念ながら、掴めていません」
 「黒いお花は、もう一株ある筈らしいねんけど、それもまだ、どこかわからへんのですゎ。すんませんねぇ」
 三千院は肩を落とし、嵐山課長が小さく頭を下げる。
 神楽岡が、首を傾げた。
 「花は、あんたらが全部、掘り返したん(ちゃ)うんか?」
 「真ん中のお花が、どこかわからんのです」
 「花掘っても、女の子らは、元に戻らんのでっか?」
 「はい、今は、別室に集まってもろてます」
 嵐山課長の言葉で、会議室が一瞬、静まりかえった。

 大原が恐る恐る質問する。
 「ほな、女の子ぉら、どないなってまうんですか?」
 「……わかりません。犯人の出方次第では、全員助からない可能性もあります」
 嵐山課長に目線で促され、三千院は沈んだ声で答えた。

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