■黒い白百合 (くろいしらゆり)-45.みつけた(2016年06月19日UP)

 黒い百合が植えられていた地点での張り込みも、継続している。
 新たに、柴田詩乃花(しばたしのか)の目撃証言があった古都大安(ことたいあん)マンションも、対象に加わった。

 翌日、一課の二本松が捜査結果を報告した。
 「マンションの管理会社に、ここ一月程の防犯ビデオを確認さしてもらいました。柴田詩乃花だけやのぉて、他の六人も映っとりました。毎回やないんですけど、同じ住人の男が、一緒に映っとります」
 「犯人は、古都大安マンションの住人なんか?」
 橘警部が頭を掻く。
 人目に付きやすい自宅に、六人もの行方不明者を集めるだろうか。
 三千院が橘警部の疑問に答えた。
 「犯人が住人かどうかはわかりませんが、少なくとも、ここが渦の中心なんでしょうね。何事もなければ、もうすぐ満開ですから、贄を集合させたんでしょう」

 科捜研から、報告書が届いている。
 粘土板の一枚から、体毛が一本、検出された。種類は睫毛。色は黒。人種は陸の民。性別は男。血液型はA型RHマイナス。日之本帝国人の可能性が高い。データベースには、一致するDNA型なし。
 「日之本人で、RHマイナスて、珍しいな」
 「科捜研、凄いな。儂、落ちてる奴一本だけ見て、眉毛か睫毛か鼻毛か、わからんで?」
 「作ってる最中に、目ぇこすってもたんかな?」
 橘警部が、一課の刑事達の感想をまとめた。
 「さぁなぁ? まぁでも、えぇ証拠がみつかってよかったゎ」

 「なぁサンちゃん。例の粘土板、多分、犯人の毛ぇ入っとったけど、これ、犯人、自分が呪われたりとかせんの?」
 魔道課の鴨川が質問する。
 暫し考え、三千院は口を開いた。
 「……うーん、多分、それはないんじゃありませんか? 粘土板は単に、術を発動させる装置ですから。球根に本人の血が付いたら、別ですけど……」
 報告書には、土壌の分析結果なども記載されている。
 何かを焼いた炭と、水知樹(みずちじゅ)の樹液が検出された。炭には、動物性蛋白質の断片が含まれていた。
 テッポウユリは、DNA解析の結果、出荷した種苗会社を特定できたが、大量に出回っている為、販売店の特定には至らなかった。

 「あッ!」
 それまで、無言で防犯ビデオの不鮮明なキャプチャを睨んでいた河原が叫んだ。
 「これ、普家絵冬(ふけえふゆ)の上司や!」
 「なんやて?」
 「これ、この三枚目、普家絵冬と映ってる奴。行方不明になった後の日ぃやないか!」
 「……ホンマや」
 手元の資料を見直し、一緒に聞きこみに行った神楽岡が呟いた。
 防犯ビデオのキャプチャには、六月十一日の日付が入っている。
 普家絵冬の行方不明が発覚したのは、六月八日だ。
 会議室の空気が変わった。
 「知っとって、戻って来んかったらバイト入れなアカンなぁ、てボヤいとったんか!」
 「ナメた真似しやがって!」
 「で、上司の新月(にいつき)が、女の子ぉら(さろ)て殺すつもりの犯人で、間違いないねんな?」
 橘警部が河原に念押しする。河原は、ぐいと顎を引いた。
 「恐らく」
 「ほな、逮捕状、請求してくるゎ」
 ひとまず、誘拐で請求。捜索で行方不明者の他、呪具や魔道書が見つかれば、被疑事実に魔道犯罪規制法違反を記した逮捕状も、追加で請求する。
 十中八九、上司の自宅マンションには、行方不明の六人が居る。但し、本来の中身は府警の別室で保護している。六人の身体には、魔物が入っているのだ。

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