■黒い白百合 (くろいしらゆり)-33.術の目的(2016年06月19日UP)
他の面々は捜査本部に戻り、
今は身元の確認なども終え、飯田、柴田と三人で休憩室に居る。
「霊力の供給が途絶えて、花も
「せやろな」
「……でしょうね」
嵐山課長に、鴨川と三千院が相槌を打つ。
「一応、センセの資料は読ましてもぉたけど、ちょっと質問、えぇか?」
一課の二本松が、小さく手を挙げた。三千院が頷く。
「結局これ、何をどなするもんで、どう言う奴が、何の目的でするもんなん?」
「六人を生贄にして、別の一人の魂を、その六人の内の一人の肉体に移し替える術です。どう言う人って……えーっと、多分、身体が年老いて若返りたい人、とかじゃないんでしょうか?」
「あー、後は、何かやらかして、別人になりたい奴とか、か」
三千院の説明に、二歩松は合点した。
「せやね。他には、誰か好きな人がおって、その人の奥さんか、恋人に成り代わりたい……言うのも考えられるわなぁ」
「若い
嵐山課長と鴨川も、犯人像を述べる。
「怪我か病気で、寝たきりか余命幾許(よめいいくばく)もない身内を助けたい言う人も、居てるんちゃいますか?」
「それは……どうでしょうね? 医療系の魔法なら、後天的な怪我や病気は、完治できますからね。これだけ大掛かりな術が使えて、高価な呪具も揃えられるんですから、その伝手で腕のいい呪医に依頼すれば、六人も殺す必要、ありませんし……」
「余命幾許もないのに、花育つまで待たなアカン(またなければならない)術……言うんは、エライ悠長な話やな」
大原が口にした犯人像を、三千院と神楽岡が否定した。
「うーん……さよか……まぁ、そらそうやわなぁ。六人も殺して、ガワが別人になってまうんやから、そんな普通の訳やないわなぁ」
「とんでもなく利己的な邪法ですよ。生贄の六人だけじゃなくて、用済みになって解放された魔物に襲われる人も出るかも知れないんですよ」
三千院が補足した。
捜査本部長、一課の橘警部が確認する。
「……ちゅうことは、や。犯人自身は、魔物にやられんだけの力か、道具を持っとぉ言うこっちゃな?」
「そうなります」
川端東マンションに行かなかった
残りは、呪具や素材の入手ルートを洗う。
魔獣の消し炭は、様々な呪符を作る基本的なインクの素材だ。
幽界からこの物質界に迷い込んで定着し、物質の肉体を得た魔獣を炭化して作る。その際、魔獣の生死は問わないが、家畜のように大人しく人の手に掛かることはない。物質界に元々存在する猛獣よりも、遥かに凶暴で、魔力を含め、様々な能力を持っている。
日之本帝国は、科学文明国だ。
霊視力を持つ
当然、魔獣を倒せる退魔師は少ない。その為、魔獣の消し炭は、需要こそ少ないが、全量を輸入に頼っている。
薬局で劇薬などを購入する際は、身分証の提示と署名捺印が必要だが、魔術素材にそのような手続きは不要だ。誰もが自由に購入できる。
魔法文明国や、魔法と科学を折衷する
雲を掴むような話だが、まずは、市内の専門店とネット通販の業者を当たる。
主な顧客は、本職の呪符師、大学の魔道学部、オカルトマニアだ。三千院も、講義で【灯】の呪符を作った経験がある。
店主たちの口は固かった。
「コンビニで考えてみて下さいよ。お客さんの住所氏名なんか、店員がいちいち知る訳あらへんし、顔も、よっぽどやないと、憶えてませんて」
そう言って、首を振る店主もあった。
通販業者達の回答は、「違法な物を扱っている訳ではないのだから、令状もないのに顧客の個人情報を漏らす訳には行かない」と言う主旨のものばかりだった。
万一、情報を漏らしたことが顧客に知られれば、どんな報復が待っているかわからない。
この国の警察では、呪詛(じゅそ)を事前に阻止できないことを、誰よりもよく知っているからだろう。余計な怒りや恨みを買わないことが、一番の予防策なのだ。
「悪用されても野放しか……」
「仕方(しゃあ)ないやろ。法律がまだ追い付いてへんねやから」
神楽岡の呟きに、鴨川が答えた。