■黒い白百合 (くろいしらゆり)-28.小学校へ(2016年06月19日UP)

 「ん? ……あぁ、さいですか。ウチら霊能者やないんやけどなぁ……えぇっ? ……ほな、スクールカウンセラーの人も、一緒に来てくれはるんやったら、まぁ、お説教くらいは……はい、えぇ……そしたらね、怖いおっちゃんと怖いおばちゃん、どっちがえぇか、聞いてもらえます?」
 「モミジさん、何ぞやぃこしい(なにかめんどうくさい)話ですか?」
 「小学校でこっくりさん」
 鴨川は、なぁんや、と腰を落ち着けた。
 再び内線が掛かり、嵐山が出る。手短に終え、金庫に向かった。
 魔道犯罪対策課の金庫には、捜査や魔道犯罪者の制圧に用いる呪具や呪符が、保管されている。
 課長は呪符を出して帳簿に記録し、ニヤリと笑った。
 「今から怖いおばちゃんが、アホな小学生と低級霊をどやしつけて来るから、留守番よろしゅう」
 課長が「出動」した後、二人は捜査資料に目を通した。もう何度目になるだろう。

 ……あぁックソッ! 税金泥棒っぽいッ!

 何度も読み返しているせいで、却って内容が頭に入らない
 資料から目を上げ、窓の外を見た。

 ……小学校……最近、どこかで聞いたな……何だっけ?

 すっかり気が散っているところに、外線が掛かって来た。
 一瞬の差で、鴨川が出る。
 「……えっ? ……はい……はい……そしたら、二人も三人も一緒やし、サンちゃん寄越しますゎ。……サンちゃん、課長が、すぐ小学校来て、やって」
 「何があったんですか?」
 「行方不明者の中身がいてはるんやて」
 覆面パトカーで、サイレンを鳴らさずに古都市立志賀越川(ことしりつしがこせがわ)小学校へ向かう。
 校門の警備員に警察手帳を提示し、用件を告げる。傍に控えていた校務員が、現場へ案内してくれた。
 三千院が子供の頃は、公立の小学校に警備員は常駐していなかった。「スクールカウンセラー」は存在すらなかった。二十年足らずで、世の中随分、物騒になったものだ、とこっそり嘆息する。
 こっくりさんの送還に失敗して、警察を呼ぶと言う発想に、隔世の感がある。だが、お陰で行方不明者の手掛かりを得られた。

 校務員は、敷地の外に出て、生垣に沿って歩いた。
 「さっき来はった女の刑事さんが、そこに女の人が居(お)ってや、言うてはったんですけど……」
 足を止め、怖々、電柱を指差した。
 若い女性が立っている。
 捜査資料で何度も写真を見た。生花店はぎやの柴田詩乃花(しばたしのか)だ。

 三千院は、警察手帳を見せながら、声を掛けた。
 「あの、古都府警です。柴田さん……ですよね? 念の為、フルネームお聞かせ願えますか?」
 柴田詩乃花の目が見開かれる。
 「あの、柴田さん……ですよね?」
 「は、はいッ! あの、柴田詩乃花です。刑事さん、私が視えるんですか?」
 三千院は頷いた。
 柴田の目から涙が零れ落ちる。両手で顔を覆い、しゃくりあげながら窮状を訴える。
 「気がついたら、ここに居て、何か、みんなに無視されて、でも、どこにも行けなくて、知らない間に死んじゃって、幽霊になっちゃのかなって……」
 涙声で語る言葉は、他の二人と同じだった。
 柴田が落ち着くのを待ち、一歩近づく。

 「詳しいお話は、警察で伺います」
 「で、でも、ここ、何か、壁があって、あの、行けないんですけど?」
 「おんぶすれば、出られますよ」
 飯田と同じ要領で、柴田の中身を固定地点から解放した。三千院の背中の声が弾む。
 「あ、凄い、外、外ですよ、外ッ!」
 「じゃ、取敢えず降りて下さい」
 ケータイで嵐山課長に状況を報告する。
 「ご苦労さん。こっちも、もう終わってるから、一緒に帰ろか」
 嵐山は上機嫌だった。

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