■黒い白百合 (くろいしらゆり)-60.善意の業(2016年06月19日UP)
「……まぁ、今はその話やないし、ちょっと戻そか。黒井さんと普通の新婚生活したかったのに、交通事故に
嵐山課長は、【
「そんなんするくらいやったら、腕のえぇ呪医のセンセ頼んだ方がよっぽどえぇやん。お金持ちやねんから、どっかその辺の両輪の国で……」
「刑事さん、小百合には
「
……課長、いつの間に? あ、俺が焦げた魔道書を読んでる間か……
「カオ、見たやろ?」
「包帯したぁったから、よぉわからんかったけど……」
「小百合はな、普通の顔やってん。何の特徴もない、美人でもブスでもない、見た瞬間、忘れてまうような、薄い顔」
新月は遠くを見る目で語った。
「でも、好きなんやろ? 婚約してるくらいやし」
「好き言うか、親が勝手に決めただけや。小百合は、俺が見鬼やて仲人に教えられても、気色悪がったりせんかった。普通のまんま、変わらんかった。せやから俺も、普通に、ヨメにしたろ
……随分、上から目線だな……老舗の親戚筋だし、力関係がモノを言う筋の縁談なのかな?
三千院は、新月を再び貝にし兼ねないことは口に出さず、黙って見守った。
「あんたらは、魔法の治療がどういうもんか、知ってんねやろ?」
魔道課の二人は頷いた。
「腕のえぇセンセやったら、即死でない限り、元通りにできんねやろ」
「元に戻す……復元だから、生まれつきの病気とかは、治療の対象外なんですよね。黒井さんに何か、生まれつきの持病があるんですか?」
それならば、移魂の渦の使用も頷ける。良い悪いは別として。
「持病? いいや。事故に遭うまで元気やったで」
「えっ? そしたら何で?」
嵐山課長の質問は、尋問であることを感じさせない。三千院すら、世間話かと錯覚する。
「誰の為に、移魂の渦に手ぇ出したん?」
新月は何の抵抗もなく動機を喋った。
「そら勿論、小百合の為や」
取調室内の刑事三人は、一様に首を捻った。
代表して、嵐山課長が質問する。
「……えーっと、今、黒井さんには別に、生まれつきの持病はない、言うたやんね?」
「あぁ。カラダは別に何もない」
「そしたら、何で?」
「カオや。今、顔ぐちゃぐちゃになってもとって、ちょっとずつ手術して戻してるとこやねん。元通りになったとこで、所詮はあのカオや。可哀想やん。カラダがあっこまでアカンようなってもてんのは、科学の医療じゃ無理や。せやのに、小百合の親が魔法は信用ならん言うて、普通の病院で治療さしてんねん。それやったら、俺が自分で、小百合を美人で元気な体にしたった方がえぇやろ」
取調べの可視化の為、遣り取りは全て録音されている。
……わかりやすい……わかってみたら、わかりやす過ぎる……
三千院は、行方不明者の顔を思い出し、内心、脱力した。
小柄で華奢で、思わず守ってあげたくなる系。ちょっと古風な和風黒髪美人が、新月賛治の好みのタイプなのだ。