■黒い白百合 (くろいしらゆり)-62.自供内容(2016年06月19日UP)

 新月が、独り言のように訥々と供述を始めた。
 生贄は、小百合の入院中に目星を付けた。
 病院の事務員、病院前の花屋とコンビニ、婚約指輪と結婚指輪を購入した宝石店と自社の従業員だ。二谷は、古都大学で水遣りをしている時に見染めた。
 事前に使い魔にした雑妖で、付近の監視カメラの位置を調べ、【跳躍】先の死角を入念に確認していた。
 江田と二谷の入れ替えについては、水遣りに行った際、江田の不在に気付いた。
 大学での固定は最初に実行した為、術の掛かりに自信がなかった。
 術による魂の拘束が不完全だったのかと思い、次の生贄を探した。
 古都大生の白神百合子に目を付け、興信所を雇い、身辺を調査した。交際相手が居ることはわかったが、辺りを漂う雑妖を日替わりで使い魔にし、機会を伺った。
 巴が風邪で休んだ日、新たな魔物を使い、白神を捕えようとしたが、気付かれ、逃げられた。使い魔で監視を続け、警察に言ったことも把握した。
 備東の身体を殺害に使用したのは、後になって「汚れている」ことに気付いた為だった。

 「所謂、清楚系ビッチ言う奴やったんや。騙しやがって」

 ……それは、鼻の下伸ばして騙される方に問題あるんじゃ……男友達は、どんなコか知ってて割りきった付き合い方してたし……

 三千院刑事は、ツッコミの言葉を呑み込んだ。
 同じ眼を持つ見鬼だからか、新月の説明は嵐山課長と三千院にわかりやすい。河原は時折、首を傾げながら、調書を取っていた。

 その後、二谷に目を付けた。
 江田の身体から魔物を抜き、壺に収納しようとしたが、消えてしまった。江田の魂が不在で、術が不完全だと言う自覚があり、別の魔物を用意していたので、二谷の固定は問題なくできた。
 これで渦が完成し、開花を待つだけになった。
 術が成功した場合、残った身体は魔物の餌にして始末する予定だった。
 この世ならぬモノが、血肉だけでなく、一片の骨も一筋の髪すらも残さず貪る。そうなれば、死体は決して見つからない。死体がなければ、ただの行方不明として処理される筈だった。
 新聞に載ったせいで無駄に注目され、水遣りに行きにくくなった。そのせいで、江田以外は、魂の不在に気付くのが遅れた。
 普家の件での警察の聞きこみの後、他の地点を使い魔に探らせた。
 百合が掘られ、術が破られていた。
 捜査の手が及ぶ前に証拠を処分しようと焦ったが、思いの外、警察の動きが早く、間に合わなかった。

 「黒井さんは、あんたが何しよったか、知ってはんの?」
 「いいや。魔法のこと言うても、どうせわからんやろし」
 「まぁ……気付いてはったら、全力でやめさしたやろね」
 「は? 何で? 元気でキレイなカラダになれんねんで」
 刑事と被疑者が、互いに全く理解不能なモノを見る目を向け合う。
 「もし、あの術が巧いこと行ったとして、あんたあれ、何人殺す術や思てんの?」
 「六人」
 新月は、馬鹿な質問だとでも言いたげに即答した。
 「(ちゃ)(ちゃ)う。七人や」
 嵐山課長が、両手で「七」を示した。
 「は? 七人? 白神百合子も含めてか?」

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