■黒い白百合 (くろいしらゆり)-39.交友関係(2016年06月19日UP)
一方で、備東が登録しているSNSがみつかった。
友人や元交際相手らも、借金の取り立てや復縁目的で、行方を捜していることが判明。事件のニュースをリンクで共有し、今後の対応をどうするか、相談しているグループもあった。
ヤマ◇ビトー、マジしゃれんなんねー。
セノ◇人殺しからカネ回収とか、ムリ。マジ無理
イオ◇あきらめんの? だったら俺にも金くれ。
セノ◇諦め切れねーけど、コロされちゃシャレんなんねーし
ヤマ◇やっぱ、カネより命を大事にだよなー。
セノ◇懲役何年だろ?
ヤマ◇出てくる頃には確実に劣化してるよな。
イオ◇もったいねー。ヤっとくなら、今の内?
セノ◇今、ドコ逃げてんだろな?
イオ◇逃げんの手伝ったら、ヤらしてくんねーかなー。
イオ◇借金チャラでもイイ。
ヤマ◇お前、殺人犯とヤんのかよ?
セノ◇借金チャラ+お前をヤってカネ盗られるかもよ?
ヤマ◇やべー、マジヤベー。ごーとーさつじんー。
知人の一人が、一課の捜査員に遣り取りを提示し、任意でスクリーンショットを提供した。自身は報道を知って早々、グループとは少しずつ距離を置いている最中で、この会話には参加していない。
「刑事さん、俺もカネ貸してたんっスけど、逮捕されたら返してもらえないんっスか?」
「逮捕は関係ないで。金がなかったら、返すもんあらへんやろ」
「マジっすか? 俺、トータルで七万くらい貸してんスけど?」
「借用書は作ってへんのか?」
「はぁ? 何スか? それ?」
「あー……そらもうアカンゎ。金貸した証拠も何もあらへんねやったら、民事で裁判してもアカンゎ」
「マジっすか? 何とかなんないんスか?」
「兄ちゃん、人に金貸す時は、返って来んもん、あげたもん
「えー……ちょ、マジっすか?」
「まぁ、高い勉強代やったなぁ」
河原(かわら)刑事の説明に、青年は落胆したが、尚も食い下がる。
「マジ、何とかなんないんっスか? 俺、マジ、カネ盗られてんじゃないっスか。詐欺とか泥棒とか、えーっと、マジでカネ、返って来ないんっスか?」
「貸す時の話、録音とかしてへんの?」
「いや、何スか、それ? そんなのいちいち録ってないっスよ……あ、でも、メッセは残ってるっス」
青年は素早くケータイを操作し、該当のメッセージを表示した。河原刑事の返事も待たず、眼前に突き出す。
ビトー◇ごめ〜ん。次入った時、絶対返すから、1マン貸して〜。
ベツ ◇次っていつ? 給料日?
ビトー◇なんと! 今回もぉすぐで〜す♪ラッキー☆
ベツ ◇もうすぐって、いつ?
ビトー◇15日に入るから、その次ゎ返せるよ〜♪
ベツ ◇利子いらねーから、前のと足して返せよ
ビトー◇え〜? まだぃくらかゎかんなぃし〜?
ベツ ◇わかんねーってなんだよ
ビトー◇1マン以上はカクジツだけど、まだゎかんなぃんだもん。
ベツ ◇じゃあ、1万+千円でも2千円でもいいから、分割で返せ
ビトー◇ぇ〜っ? 返さなぃって言ってなぃじゃん。ケチ。
ベツ ◇ケチじゃねーよ。借金増やしてねーでさっさと返せ
ビトー◇せっかちクンは嫌われるんだよ〜? ベッツンぃぃのwww
ベツ ◇ケチじゃねーよ。貸さねーとは言ってねーだろ!
ベツ ◇返してから借りろっつってんの!
最近流行りのイラストがちりばめられた遣り取りで、河原刑事の眼にはふざけているようにしか見えない。本人達は大真面目だ。
「で、こんなんで金、貸してもたんか(かしてしまったのか)」
「はい。でも、あいつ、十五日の夜、カネ入ったか連絡してもシカトして、ずーっとレスなし。コンビニ行ったら、店長が行方不明つってたし、それから、ニュースのアレもあって……刑事さん、こう言うの、詐欺じゃないんスか?」
「これだけやったら、一万貸したか、確定せんしなぁ……いっつもこんなんなん?」
「えぇまぁ、五千とか一万とか、ちょっとずつ。三回に一回くらいは給料日に返してくれるんスけどね」
「で、返してもぉてへんのが、トータル七万?」
「そうっス」
河原刑事は、溜め息を堪(こら)えて聞いた。
「貸したんと返してもぉたんの記録は?」
「俺は、アプリで付けてるっスけど……」
軽そうな青年だが、意外に堅実だ。
「せやけど、弁護士付けたら足が出るしなぁ……弁護士なし、自力で少額訴訟やな。無料の法律相談で聞いてみ。で、この流れもスクショくれんか?」
「いいっスよ。それやれば、七万、返って来るんスね?」
「勝訴しても、無い袖(そで)は振れんからなぁ。まぁ、その辺も法律のプロに聞いてみ?」
望みが出たからか、青年は表情を和らげ、快くスクリーンショットを提供した。
「給料日前に入金て、何の金か聞いてへん?」
「一日だけ、臨時のバイトがあるっつってましたけど」
「どこで、なんの? 金額もわからんと受けたんか?」
「えっ? いや、そこまではちょっと……」
言葉を濁す青年に、河原刑事は無言で続きを促した。
「俺は、カネ返してもらえれば、別にイイし……清楚系ビッチだし、金持ちのオヤジでもひっかけたんじゃないんスか?」
「売春しとった言うんか?」
「えっ? いや、それは……知らないっス。でも、あー言う奴だし、俺は、付き合ったことないんで……知らないっス。やり兼ねないな、とは思ってるっスけど、知らないっスよ。マジ」