■黒い白百合 (くろいしらゆり)-11.夜の訪問(2016年06月19日UP)

 撮影者の帰宅後、ネットオークションサイトをベテランママのメルアドで検索する。
 メルアドと同一のアカウントが見つかった。履歴を見ると、様々なキャラクターグッズが出品され、高値で落札されている。
 隣の市に住む親戚に事情を話し、園から帰った娘を翌日の夕方まで、預かってもらった。
 夫に電話し、仕事が終わったらすぐ帰宅するよう言い、オークションの履歴を印刷した。

 帰宅した夫が、玄関の靴箱に乗せていたクッキー缶も、なくなっていることに気付いた。
 集金用に現金を入れていた物だ。ありふれた缶だが、娘がマジックで名前や落書きをしている為、一目でそれとわかる代物だ。

 夫婦で相談し、すぐに盗難届を出した。
 到着した警察の調べで、冷蔵庫の扉から家人ではない指紋が一人分、検出された。
 玄関とトイレのドア、カウンターキッチン、ミニテーブルからは、家人ではない複数の指紋が出た。
 翌日の昼過ぎ、新米ママがオークションを監視していると、件のマグネットがベテランのアカウントに出品された。

 警察が、事件当日に訪れた面々から事情聴取し、任意で指紋の採取を行った。家人と来客、窃盗犯の指紋を区別する為だ。
 その夜、ベテランがマンションに来た。
 インターホンの遣り取りは、至極まっとうだった。
 「引越してきて早々、泥棒に()うて可哀想。心配やから様子見に来てん」
 入口のオートロックを解除。
 ケータイの録音機能をONにし、上がって来たベテランと玄関のドア越しに応対する。
 「どない? 怖い目に()うて、大丈夫? 大事なモン盗られてへんか、一緒に見たるわ」
 「ありがとうございます。大丈夫です。奥さんに指紋の粉が付くといけませんから……」

 後でこの遣り取りを聞いた時、三千院は心底、呆れた。
 知り合ったばかりの赤の他人が、貴重品の位置を把握しているとは思えない。

 「まぁ、そない言わんと、ほな、その掃除も手伝(てつど)うたげるわ」
 「ありがとうございます。大丈夫です。警察の捜査で散らかってますし……」
 「マグネットがバッグの金具にくっついとったから、返したいんやけど、開けてんか」
 「マグネット? どこのマグネットですか?」
 「冷蔵庫の戸ぉにあった奴。使(つこ)たコーヒー茶碗、洗おうとした時に……」
 「流しと冷蔵庫は随分、離れてますけど、バッグを持って洗い物なさろうとしてたんですか?」
 「新入りの癖に生意気な! こんなしょうもないモンくらいで盗人扱いしやがって!」
 玄関のドアに何かを投げつける音と、足早に立ち去る音の後、静かになった。念の為、通報する。

 警官……上司と三千院が確認すると、例のマグネットが三つ落ちていた。二つは、キャラクターが描かれたプラスチック部分が割れていた。
 マグネットは証拠品として押収し、録音のデータとマンションの防犯ビデオも提出された。

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