■黒い白百合 (くろいしらゆり)-17.人か魔か(2016年06月19日UP)
府警へ戻りがてら、
どちらも本人から連絡などはなく、何の情報も得られなかった。
生花店には、ひっきりなしに客が訪れ、その度に話が中断した。
何人もの客が、黒い百合について問い合せる。ないと分かれば、何も買わずに出てゆく者が大半だ。
何度も同じ答えを繰り返し、店主はうんざりしていた。
「まぁ、見てもぉたらわかりやるやろけど、父の日のアレやらコレやらで、忙しさかいにな、はよ戻って欲しいんやゎ。刑事さん、頼んます」
魔道犯罪対策課に戻り、課長に報告した。
「壺の奴はタダの変質者かも知れんけど、飯田さんは、江田さんと
「課長も、そう思いますか」
「そない考えるんが、自然や思えへん? 人間の仕業かどうかも、わからんけど」
飯田は、別室で同じ状態の江田と話している。
嵐山課長が遠慮なく、人外の可能性を口にした。
「魔物やったとしても、何の種類かもわからへんし、野良の奴か、人間が呼び出して
「うっかり……は、時々マニアの奴がやらかして、自分が食われたりしてるけどなぁ」
「故意で、使いこなしてるとしたら、相当、面倒臭い奴やと思うわ」
鴨川が、魔道犯罪対策課の発足直後に起きた事件を思い出し、課長と頷き合う。
その後も、全国で同様の事件が散発している。
「人間やったとしたら、何の目的で、何の術を
「サンちゃん、何かそう言う術に心当たりない?」
三千院は、鴨川の質問に頭を掻いた。
「自分でも、持ってる文献を、色々調べてみたんですけど、わかりませんでした。すみません」
「邦訳されてる術なんか、数が知れてるし、仕方(しゃぁ)ないゎ。外国から来たホンマの魔法使いの可能性も、考えとかんとなぁ」
嵐山課長が頭を抱えた。
この課には、霊視力のある「
他課の捜査員は、霊視力のない「
魔法文明圏では、物質と霊質の両方が視認できて当たり前。半視力は保護の対象だ。
日之本帝国などの科学文明国では、半視力が多数派で、見鬼は異能者と看做される。
「今までは、なんちゃって魔法使いが相手やったから、なんとかなっとったけど……」
「警察の装備だけで、どこまで対抗できるもんなんやろなぁ」
人間の魔法使いであれ、魔物であれ、犯人の能力が不明では、対策を立てにくい。
魔力のない人間でも、魔力を籠めた水晶などの宝石や、呪符があれば、魔術の行使が可能になる。
道具の力を借りただけの「なんちゃって魔法使い」ならば、道具を取り上げるだけで、無力化することが可能だ。
それらは勿論、警察の装備にもあるが、予算が限られている為、質も量も充分と言えるものではなかった。
「まぁ、何モンの仕業なんか、わかってからやないと、どないもこないもならんし、気ぃ付けて捜査するように、みんなに言うとくゎ」
課長がメールを打つ間、三千院は捜査資料を読み返した。
勤務先が川端病院周辺と言う共通点があった。
捜査本部では、退勤後の帰路で何かあったと推測しているが、いずれも、防犯カメラの映像や家人の話では、無事に帰宅している。
帰宅後、手ぶらで外出した後、行方がわからなくなっていた。
交友関係を洗ってみたが、江田と備東以外には、全く接点がない。共通の知人の有無も、今のところわかっていない。
他の四人の勤務先は、市の北西部の左区。それも、川端病院か、その周辺に集中していた。
飯田は、固定されていた民家の辺りに行ったことすらないと言う。
中身だけを左区に残し、身体は何処へ行ってしまったのか。
五人とも、関係者の話では、家出の理由がないと言う。
備東は、異性関係のもつれから、身を隠している可能性もあるが、貴重品や携帯電話を置いて行くとは考えにくい。
五月中、川端病院周辺で発生した事件は、万引き、痴漢、空き巣、交通事故。
五人とは特に関連性が見られなかった。
被害者本人と直接、話せるにも関わらず、何の手掛かりも得られない。
役立たずだなぁ……
捜査が進展しないまま、新たな行方不明が発生し、時間だけが過ぎてゆく。こうしている間にも、江田と飯田の身体は、本当に死んでしまうかも知れないのだ。
って言うか、自分も被疑者になり得るよな?
古都大学魔道学部卒。土地勘と魔術の知識がある。霊視力もある。
魔力はないけど、魔力の水晶の入手ルートを持ってる。
同じ条件が当て嵌まる人物を総当たり……? いや、現実的じゃないな。
考えが同じ所を堂々巡りし、三千院は溜め息をついた。