■黒い白百合 (くろいしらゆり)-29.移魂の渦(2016年06月19日UP)

 魔道犯罪対策課で、改めて事情を聞いた。
 「こんなべっぴんさんが、三人もなぁ……」
 鴨川が嘆息する。
 柴田も江田、飯田と同じだった。

 五月十九日、生花店はぎやの閉店後、配達の係を先に帰らせ、二十時頃まで店長と二人で残業していた。生産者や卸への支払伝票の処理、父の日のネット予約と発注処理などだ。
 自宅が逆方向なので、店長とは店の前で別れた。
 帰路に就いたことは覚えているが、その後、どこでどうして、中身だけがあの場所に居たのか、本人にもわからない。

 柴田は事情聴取を終え、今は飯田とテレビを見ている。
 「あぁ、せや、サンちゃん、古都大のセンセから、電話あったで。折り返し掛けて欲しいて」
 鴨川が電話番号のメモを寄越した。研究室の直通に掛ける。待ち構えていたのか、ワンコール目の途中で、伏見教授本人が出た。

 「三千院君、あれ、【移魂の渦(いこんいこんうず)】や」
 「イコンノウズ……?」
 今朝、伏見教授は古都大の敷地内で、黒い百合を見つけた。
 場所は、最初に江田英美が発見された植え込みだ。本来のテッポウユリは白い。何かが引っ掛かり、百合を使う儀式魔術を調べた。
 儀式魔術の膨大な資料の中で【移魂の渦】の記述に行き当たった。

 一、術の触媒
 魔法陣に埋め込む魂六柱(たましいろくはしら)とその肉体、肉体維持の為の妖魔が六柱、移送元の人間一人、白い百合の球根七つ、魔獣の消し炭と水知樹(みずちじゅ)の樹液、固定対象の血液少量、粘土板、魔力を籠めた宝石七つ。
 二、手順
 魔法陣の要所に六柱の魂を固定し、その霊力と宝石の魔力を注ぐ。
 魂の固定場所に球根をひとつ埋める。中心の花には、魂を固定しない。
 その四方に、呪文を刻んで乾燥させた粘土板四枚一組、魔力の宝石をひとつ埋める。
 魔獣の消し炭と水知樹の樹液で黒インクを作る。
 この黒インクと固定対象者の血液を混ぜ、球根に注ぐ。
 これにより、対象の魂がこの場所に固定される。

 発芽後は、普通に育てる。
 肉体は、術が完成するまで維持する必要がある。
 妖魔などを憑かせ、肉体が死なぬよう世話をする。
 蕾ができる頃、この黒インクと固定対象の血液を与える。

 黒く染まった白百合の花が咲く頃、魔法陣の中心で儀式を行う。
 中心の花に移送元の人間を触れさせ、術者が呪文を詠唱する。
 移送元の肉体を殺害し、その血を中心の百合に注ぎ、百合に魂を移す。
 移送先の肉体に中心の花を食べさせる。
 魔法陣に組込んだ六人の内、移送先の肉体を残し、他の五人は殺害する。
 五人の血を中心の百合に注ぐ。移送先の肉体に魂が定着。六名の魂は冥界へ。妖魔は解放される。

 「一人の魂を別の肉体に移す為に、六人を殺す理不尽な術や。失敗したら、七人みんな死んでまうし、解放された妖魔も何をするやら……」
 「そんな……」
 三千院は伏見教授の説明に絶句した。
 「全部で六人、居(お)らんようなっとぉ筈や。百合……黒い百合を掘るんや。大学の奴は、儂(わし)が掘っといたろか?」
 「いえ、警察が掘ります。メールで書式をお送りしますんで、鑑定書、書いていただけませんか?」
 「大体の説明書やったら、もう作ったけど、何や、書式があるんか?」
 三千院は書式を送り、改めて鑑定書の作成を依頼し、受話器を置いた。
 課長と鴨川にも説明する。
 「邪法……」
 「人間の魔法使い確定か」
 鴨川が絶句し、課長が眉間に皺を寄せた。

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