■黒い白百合 (くろいしらゆり)-61.ばけもの(2016年06月19日UP)
嵐山が眉間に皺を寄せ、嫌悪感も露わに質問する。新月は鼻で笑った。
「あんた自身、あのコらに悪さしてへんやろね?」
「悪さ? ……あぁ、性犯罪的な奴? してへん。中身アレやで? あんたらも視たやろ?」
三千院は、呪条で繋がった魔物の感触を思い出し、思わず嘔吐(えず)いた。
「な、あんなん無理やろ」
「……」
三千院は、込み上げた物を飲み下し、涙の滲む目で新月を睨んだ。
「あの魔物は、あんたに力がないから、あんなんなってもてんで」
「は?」
嵐山は冷たい声で続けた。
「力のないもんが、水晶ケチって呼んだから、この世界にちゃんと顕現できんと、あんなグズグズに溶けてもたんや……可哀想に」
「は? 可哀想? 化けモンやで?」
新月が嘲る。
「この世界では化けモンでも、あっちの世界では普通の生きモンや。
あんたがいらん事
嵐山の声に咎の棘はない。静かに流れる水のように滔々と、異界の住民を案じる言葉を連ねる。
「送り還したけど、治るかわからん。あのまま、向こうで死んでもたかも知れん。あんたは、人間も化けモンも不幸にすんねんな」
「は? 化けモンは別にえぇやろ」
新月が鼻で笑う。三千院は、この被疑者を新種の生物を見る目で観察する。
……あのママさん達も衝撃的だったけど、交番に来た人達の話をまとめたら、何であぁなっちゃったのかわかったし、やったことの是非善悪は別として、気持ちはわからなくもないし、少しは同情できるとこもあったけど……コイツは……何なんだろう……?
「まぁ、今の法律じゃ、異界の生きモンをどないかしても、お咎めなしやから、置いとこか」
嵐山課長が、事務机の上で何かを右から左に移動する手振りをして、話を続けた。
「もひとつ、人間の娘さんを邪法に巻き込んだり殺したりしたんは、どない
「は? 殺した? 誰を? あんたらが術破ったから、まだ誰も、生贄にしてへんで?」
新月はとぼけてみせたが、明らかに動揺している。
「古都大生の白神百合子さんや」
「は? 古都大? 知らんなぁ」
「あんたが備東さんの身体に魔物入れて、あんたの命令で白神さんを線路に突き落としたんは、わかってんねんで」
「そんなん、その女が勝手にやっただけやろ。何で俺のせいやねん」
自分は無関係だ、とせせら笑う新月。
他者を丸めこんで利用する為に、自分を「いい人」に見せかける術に長けている。
嵐山は表情を変えない。
「白神さんを生贄にしようとして、操魔の壺持って待ち伏せしたけど、逃げられて顔見られた
「は? そんなん知らん。俺が生贄にしたんは、家におった六人だけや」
殺人について否認を続ける新月は、墓穴を掘り続けていることに気付かない。
本人の口から、魔道犯罪規制法違反と営利目的等略取などを認める言葉を引き出した。
三千院は感服した。
「生贄で思い出したけど、何で江田さんと二谷さん、入れ替えたん?」
嵐山課長が世間話の口調に戻る。新月の顔から血の気が引いた。
「何で知ってんねん?」
「あんまり、警察を見くびらん方がえぇで」
新月の顔が驚愕から怒りに変わったが、すぐに力なく俯き、詳細を自供した。