■薄紅の花 04.河口の街-48.東の街道 (2016年01月03日UP)

 神殿での儀式が終わり、巫女と舞い手が、四つ辻で浄化の舞を奉納する。
 双魚は初めての道を通り、キートの東門に案内された。

 東の外には石畳の街道が伸びている。
 道の北側で、収穫の時を待つ黄金色の麦が、風に揺れる。南側は草地と防風林に隔てられ、砂浜と海が広がっていた。
 夏至祭を目当てに街道を来る人が、遠くまで点々と見える。
 「今までありがとうございました」
 「世話になったのは、こっちの方だ。何か、ごたごたに巻き込んじまって、すまんな」
 「息子さん達のこと、お役に立てなくてすみません。再会して、お孫さん達と一緒に暮せるように、お祈りします」
 「ありがとうね、ありがとうね……」
 おかみさんが、双魚の手を握り、涙を零す。
 「俺も、双魚さんの旅の無事を祈っとく。達者でな。これ、荷物の底に入れて持ってってくんな」
 「ありがとうございます」
 おかみさんが手を放し、前掛けで涙を拭う。
 亭主が双魚の手を握り込むようにして、小さな皮袋を渡した。双魚は中身を確めもせず、言われるまま、背負い袋の底に仕舞う。
 「いつか、役に立つ時が来る筈だ」

 三ツ矢が双魚の手を固く握り、別れを告げる。
 「達者でな。もう二度と会うことはないだろうが、双魚が教えてくれたことは、村でずっと伝えて行く。ありがとう」
 「俺の方こそ、ありがとうございました。三ツ矢さんと村長、他の人達にも教えていただいたことが、この先ずっと、俺を守ってくれます」
 三ツ矢が握っていた手を解き、双魚の肩を叩く。双魚は人の流れに逆らい、東へ歩みを進める。
 「元気でねー。生水には気を付けるんだよー」
 おかみさんが心配事を口にする。亭主が目を潤ませ、手を振る。
 双魚は会釈し、手を振り返した。その後は、まっすぐ前を見て歩く。

 旅の薬師、双魚の姿が見えなくなるまで見送り、三ツ矢も猫島夫婦に別れを告げた。
 「あんた達も、達者でな。焦って無理せぬように」
 「あぁ、ありがとう」
 「鵬程を越え 此地から彼地へ駆ける 大逵を手繰り 折り重ね 一足に跳ぶ この身を其処に」
 三ツ矢は荷物を担ぎ直し、【跳躍】の呪文を唱えた。
 山の民の姿が消え、街道の人々が驚いて足を止める。
 「行っちまったな」
 「そうだねぇ」
 「俺達も、家財道具を何もかんも売っ払って、身軽んなって行こう」
 夫婦は手を繋ぎ、しっかりした足取りでキートの街へ戻った。

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