■薄紅の花 04.河口の街-42.調査結果 (2016年01月03日UP)
何となくイヤな気分なので、双魚は先程の香草茶は溝に捨て、改めて入れ直す。おかみさんは台所で顔を洗い、苦笑した。
「すまないね。何か、色々……」
泣き笑いになったおかみさんに、香草茶を差し出す。おかみさんは手拭いで目頭を押さえ、ゆっくり息を吐いた。震える吐息が落ち着くまで、双魚と三ツ矢は待った。
「今日はもう、お店、閉めましょうか」
「そうだね。ごめんよ」
「いえ」
三人で閉店準備をしていると、亭主が血相を変えて駆け込んできた。
「おいッ! 大丈夫かッ!」
「あぁ、私は大丈夫だよ。心配掛けたね」
亭主がおかみさんをしっかり抱きしめ、無事を確める。
店を閉め、五人は香草茶を飲みながら、改めて話を始めた。
思った通り、悲しい報せだった。
大型商船海龍号は、東の終点付近で魔物の襲撃に遭い、沈んだ。
漁船に助けられた者は僅かで、多くは波間に消えた。その漁船も、網を断ち切り、命からがら逃げ帰った。
荷主が派遣した調査団は、主に積み荷の行方を調べており、売買の記録を追っていた。乗客の安否は調べたが、船長が助からなかったことを確認した他は、乗組員について、詳しい調査をしていない。
時間、費用、人員、目的……制約の多い中で、乗客だけでもよく調べ上げたものだ。
重い沈黙の後、有り合わせの食材で、遅い夕飯を摂った。
翌朝、おかみさんは泣き腫らした眼で朝食の支度をした。
双魚一人で水汲みに行く。
近所の人達が、事問いたげな目で双魚を見る。だが、双魚が会釈しても、小さく会釈を返すだけで、話し掛けようとはしなかった。
井戸端で立ち話をしていた一団が、双魚に気付き、口をつぐんだ。
いつもの雑妖を集(たか)らせた集団だが、いつにも増して、大きな雑妖をくっつけている。何匹もの雑妖を肩に乗せた女性が、猫撫で声で問い掛ける。
「あらぁ、薬屋さん。昨日は大変でしたねぇ」
「どうも……お騒がせしまして……」
言葉を濁し、双魚は水を汲む。
どうやら井戸端会議の面々は、待ち構えていたらしい。矢継ぎ早に質問を浴びせて来た。
双魚は、明らかになったことだけ、はっきりと答え、他は「知りません」「まだわかりません」で通した。
思うような答えが得られなかったのか、彼女らは不満げにしているが、双魚は構わず、雑貨屋に戻った。
朝食は、パンと目玉焼きと野菜だった。
焦げた目玉焼きに、親指大の塩の塊が乗っている。他の面々の皿にそっと目を遣る。焦げたり潰れたり、どの皿も酷い有様だったが、誰も何も言わなかった。双魚も黙って塩の塊を除けた。
おかみさんは、まだ心ここに在らずだが、亭主は何かを決心したらしい。目に強い意志の光を宿している。
塩辛い朝食をお茶で流し込み、亭主が告げた。
「昨日、かみさんと話し合ったんだが、二人で東の港へ行ってみることにしたんだ。店を誰かに譲って、な」
「……そうだな。それがいい。助かった者もいるらしいからな」
三ツ矢が静かに肯定する。息子を失った悲しみを知る彼の言葉に、夫婦の顔が少し明るくなった。
「店に買い手がついたら、出発する。ここは何屋になるかわからんから、先に三ツ矢さんとことの取引は、同業の巻貝屋に引き継がせてくれんか?」
「世話になったな。こちらは、あんた方と同じにしてくれるなら、構わんよ」
話がまとまると、亭主は慌ただしく出て行った。