■薄紅の花 04.河口の街-02.三年契約 (2016年01月03日UP)
大通りの喧騒から離れ、細い路地が入り組んだ区画へ入る。
三ツ矢は、双魚を馴染みの店に紹介してくれた。
小さな雑貨屋だった。
カウンターの奥に棚があり、欲しい物を言って、店主に出してもらう形式らしい。ふっくらしたおばさんが、中でにこにこ愛想良く座っている。
三ツ矢が、双魚を「旅の薬師だ」と紹介すると、立ち上がって身を乗り出した。
「まぁまぁ、遠くから来たの? へぇー、凄いねぇ。こちらこそ、よろしくね。ここにはどのくらい居るの?」
港町ベルーハと同じ言葉だ。肉付きの良い手で、双魚と握手を交わす。
双魚は、少し考えて答えた。
「定住はできませんけど、急ぐ旅でもないんで、ゆっくり行こうと思ってます」
「あらぁ、そぉなのぉ。居てくれると助かるわぁ。魔法の薬屋さんね、ここらじゃ少ないから、大歓迎よ」
「俺だけ居ても、材料がないと、薬は作れませんよ?」
「大丈夫、私に任せて。たぁっくさん、仕入れるから」
三ツ矢が苦笑し、二人の顔を見る。
「おいおい、あんまりコキ使うと、すぐ出発しちまうぞ。それに、いつまでもダラダラしててもよくない。俺が証人になるから、期日を決めてやっとけ」
双魚はそれもそうだ、と頷いた。おばさんは、ちょっとムッとしたが、すぐ笑顔に戻り、提案する。
「じゃあ、三年でどう? わかりやすい日がいいから……そうねぇ……三年後の夏至祭の次の日に出発ってことで、どう?」
「……そうですね。俺も、この辺りの薬草とか、色々調べてみたいんで、そのくらいがいいかも」
「決まりだな。街では約束は紙に書いて、約束した本人と、証人で同じ物をそれぞれ持っとくんだ」
三ツ矢が言い終えるより先に、おばさんは、羊皮紙とペンとインク壺をカウンターに並べた。
三人で額を寄せあい、相談する。
おばさんがあれこれ出した細かい条件に、三ツ矢が渋い顔で反対し、譲歩させる。双魚はできないことは、はっきり断るが、衣食住の条件に関しては、頓着しなかった。
話がまとまり、契約書ができあがるまで、客は一人も来なかった。
一言一句違わず、同じことを書いた羊皮紙三枚をカウンターに並べて、乾くのを待つ。
おばさんが奥に引っ込み、お盆を持ってきた。
赤いお茶を飲み、薄い焼き菓子を摘まみながら、三ツ矢とおばさんが商談を始める。三ツ矢は山で採った木の実や薬草、獣の革、村長が作った【炉】盤、魔力を籠めた水晶を持って来ていた。おばさんは、布や包丁、針、鍋などを出してくる。
双魚は、二人の遣り取りを眺めながら、薄甘い菓子を齧った。