■薄紅の花 04.河口の街-25.怖いもの (2016年01月03日UP)
橋を渡らず、こちら側の河川敷で薬草を探す。
河に船はなく、冷たい風が吹き渡っていた。西の山には雪が積もり、山頂付近が白い衣を纏っている。
夏は、洗濯するおかみさん達が大勢いたが、今は誰ひとり居ない。
こちら側にも、対岸と同じ小さな祠がある。赤い布で作った花が飾られていた。
祠の前には大きな焚火跡があった。河原の石は焦げているが、炭と灰は殆ど残っていない。僅かに残った灰は、明らかに人の手で乱されていた。
双魚は足が竦み、立ち止まった。
「あぁ、それな。冬至祭の晩、祠でも寝ずの番で火を焚くんだ。年が明けたら、消し炭や灰を持って帰って玄関に塗って、神様のご加護をいただくんだ」
長男の縞鯱が懐かしげに説明する。その声音で緊張が解け、双魚は縞鯱と並んで歩みを進めた。
「さて、河に着いたぞ。俺達は薬草の目利きはできんから、先生、後はお願いしますぜ」
次男の白鮫がおどけて言う。双魚は苦笑し、辺りを見回した。
傷薬になる薬草は通年、青々と茂っている。茎には真新しい純白の虫綿が付いていた。綿の中では、小さな虫たちが身を寄せ合い、寒さに耐えている。
傷薬はまだ在庫がある。他の薬草を探すことにして、移動した。
虫下しになる青い実が、まだ少し残っている。枯れ草の先で揺れる小さな身を摘み取り、袋に入れる。
兄弟は興味津々で、何の薬になるのか聞き、感嘆した。双魚の邪魔にならないよう、少し離れてついて来る。
素材は思ったより沢山残っていた。双魚は、あちこちに点在する薬草を少しずつ摘み取りながら、川上方向に歩いた。緩い勾配と足下の不安定な石で、汗が滲む。
船も人影もない冬の河原で、日が天の中央に来るまで、素材を集めた。袋に半分程度、貯まった。
双魚が腰を伸ばして天を仰ぐと、縞鯱が帰宅を促した。
「そろそろ、腹も減ったし、帰ろうか」
三人は来た道を引き返し、街へ戻った。
兄弟は河原ではのんびりしていたが、城門を入った途端、表情が引き締まる。双魚は怪訝に思ったが、聞いてはいけないような気がして、黙って歩いた。
双魚の様子に気付いた白鮫が、小声で言った。
「人間って奴が、一番怖いんですよ」
双魚は小さく頷いた。大通りには雑妖の姿はない。
冬至祭の【魔除け】の舞いで、僅かなりとも消えた事と、空がよく晴れている事。キートの街は今、そのふたつに守られていた。それが何日続くかは、わからない。
雑妖は闇を好む。陽の光を浴びれば、弱いモノはそれだけで消えてなくなる。
雑妖は穢れを好む。家を清潔に保つだけで、発生を抑える事ができる。
魔力を持たずとも、ささやかながら、対抗する手段はある。
雑妖はどこにでも発生する。雑妖を増やし、勢いづかせ、力を与えるのは人間だ。
雑妖は穢れを好む。穢れがあるから雑妖が集るのか、雑妖が集るから穢れるのか。
双魚はまた、迷子になった日の暗い路地を思い出した。