■薄紅の花 04.河口の街-18.子の帰省 (2016年01月03日UP)
意識して、体を動かすようにはしているが、家の中ではどうしても、体が鈍ってしまう。最近、腹回りがキツくなってきたのも、気になる。
夕飯を食べながら、双魚は思い切って言ってみた。
「今はまだ、日が短いからいんですけど、春になったら、薬草採りに付き添っていただけませんか? あの、時々でいいので……」
「俺が休みの日なら別に構やせんが、どうしたね? 薬草の仕入れ、足りてねぇのか?」
亭主は後半を女房に向けて言った。おかみさんは苦笑した。
「材料は倉庫にたんまりあるさね。体が鈍って困ってるんだよねぇ」
少し気恥ずかしくなり、双魚は小さく頷いた。
魚と貝と根菜を羊乳で煮込んだスープが、温かい湯気を立てている。滋養があって、体も温まるが、外出しない双魚には、多かった。折角、作ってくれたから、と毎食残さず食べているが、余分な滋養は腹肉となって残った。
「もうじき冬至祭だ。息子達も陸に帰って来る。三人いるから、交替で付き添わせようか?」
「えっ? いいんですか? 折角の帰省ですし、親子水入らず……」
「なぁに、気にすんな。もう奴らもいい大人だ。末っ子でも双魚さんより年上なんだ。構やしねぇよ」
亭主が笑い飛ばし、おかみさんと双魚もつられて笑った。
冬至祭が近付いてきた。
店を訪れる客は、更に着膨れ、時折、窓の外を雪が舞うようになった。雑貨屋で扱う品も、赤い布や蝋燭など、冬至祭用の品が増えた。
市場では、冬至祭の祝い用に南瓜や柑橘が売りに出されている。
街全体が、新年に向けてそわそわしていた。
いつもの暦では、月齢の終わりが月末だが、年末だけは違う。
冬至が大晦日で、夜が明けて新しい太陽を迎えれば、新しい一年が始まる。
猫島家の三兄弟は、冬至の前日に帰って来た。
未明に入港し、船の繋留などを終え、朝食前に実家の扉を叩いた。
台所で朝食の準備をしていたおかみさんが、小春日和のような笑顔で息子達を迎え入れる。母子はしっかり抱き合い、肩を叩き、久し振りの再会を喜び合った。
亭主と双魚も朝食に降り、三兄弟と対面する。
先におかみさんが話してくれたのか、三人は双魚をすんなり受け容れた。
三人とも赤銅色に日焼けした逞しい体躯だ。双魚は自分の腹を思い、恥ずかしくなった。
顔立ちは父である亭主によく似ている。おかみさん譲りの人懐こい笑顔で、賑やかに話す。
久し振りで口にしたお袋の味を褒め、双魚に自慢する。おかみさんが、「もうやだよ、この子ったら」と照れ笑いしながら、窘めても、一向に気にする様子がない。