■薄紅の花 04.河口の街-13.商談成立 (2016年01月03日UP)

 改まって言う院長に、亭主がぶっきら棒に返す。
 「何をお願いされるんで?」
 「医院で使う薬を都合して欲しいのです。勿論、お代はお支払します。何分、この街には術者が少ないので、魔法薬を手に入れるのが難しく、法外な価格を提示されても、言い値に従うしかないのですよ」
 錨院長は小さく溜め息を吐いた。だから、裕福な患者しか診られないのだ、と。
 亭主が腕組みをして俯く。双魚は首を捻った。まだ、カネによる流通の仕組みがよくわかっておらず、院長の話は前半しかわからない。
 「要するに、薬を安値で、売ってくれって話だ」
 「俺、物の値段って、よくわからないんで……」
 双魚は亭主に任せることにした。
 錨院長が、執務机から書類の束を持ってくる。書類は、薬とその価格の一覧表だ。
 亭主は、値段を幾つか読み上げ、目を剥いて黙った。

 「製法をご存知の物に、印を付けていただけますか?」
 院長にペンを渡され、双魚は書類を手に取った。大半が、山の民の村で作った物だった。書き込んだ書類を返し、双魚は聞いた。
 「ここに居る間、作るのは構わないんですけど、その後は、どうするんですか?」
 「その間に、薬師を養成できればいいのですが、魔力のある人自体、少なくて、なり手が居ないんですよ。……魔道士狩りの件は、ご存知ですか?」
 声を潜める錨院長に、双魚は小さく頷いた。
 「そう言うことですから、募集を掛けても、なかなか……」
 双魚は亭主に聞いてみた。
 「三ツ矢さんに頼めば、村で作った薬を持って来てくれるかもしれませんけど、どう思います?」
 「そう言や、お孫さんが薬師になったって言ってたな」
 錨院長が目を輝かせ、身を乗り出す。
 「是非、その方にお話しして下さい。お願いします」
 「話すくらいは構わんが、三ツ矢さんが次に来るのは夏だし、引き受けてくれる保証は、ありゃせんぜ」
 「少しでも構いませんので、お話を宜しくお願いします」
 院長に頭を下げられ、二人は困惑し、頭を上げさせた。
 「ところで、患者待たせて、こんな所でくっちゃべってて、いいんですかい?」
 「私の他に医師は二人居ますから、大丈夫ですよ。先程お話したように、現状、診られる人数は限られております。院長とは言え、私も他の医師も、雇われの身ですから、勝手に値下げすることはできないのですよ」
 院長は声を落とし、俯いた。

 主に亭主が交渉し、薬の納品契約がまとまった。
 価格は現在の一覧表の七割、それでも非常に高価だ。材料は院長が用意した物を使用。通常の納期は月末……他にも細々とした取り決めを書面に認めた。
 双魚は質の確認用に、持参した五種類の薬を渡した。

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第04章.河口の街
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