■薄紅の花 04.河口の街-44.初の買物 (2016年01月03日UP)
翌日、日射しが穏やかな内は、河川敷に出て薬草を摘んだ。熱冷まし用の虫も捕る。
今日は袋を三枚持ってきた。
夏至祭の後、猫島夫婦がいつまで雑貨屋を続けるかわからないが、薬なら、余っても本人達が使える。
双魚が同種の物を揃えて術で水を抜き、三ツ矢が紐で束ねて袋へ入れた。
手分けして袋をいっぱいにし、雑貨屋に戻った時には、昼時を少し過ぎていた。
亭主が一度、帰宅したのか、食卓にはパンと食材が置いてある。調理の痕跡はない。
「おかみさん、お昼、食べないで大丈夫なのかな?」
「子供じゃないんだ。腹が減ったら自分で何とかするさ」
二人は店の喧騒に急きたてられ、そそくさと昼食を済ませた。双魚はベッドの下から銀貨十枚と、銅貨二十枚を出し、街へ出た。
三ツ矢の案内で、市場へ向かう。
三年近く待ちに住んでいる双魚より、年に一度しか訪れない三ツ矢の方が詳しいと言うのも、妙な気分だ。
市場は、休み前の買出し客で賑い、ごった返していた。はぐれないように、三ツ矢の服の裾を掴んで、ついて行く。
三ツ矢は、構えの大きな道具屋に入った。
日用品の類が多い。
猫島の雑貨屋は主に消耗品を扱うが、ここは鍋等、長く使う物を商う店のようだ。様々な種類の食器や調理道具、裁縫道具、大工道具などが並んでいる。
市場の人出は、食料品等を求める者が主で、ここに客はいなかった。
「頼んどいた物、入ってるか?」
「あぁ、三ツ矢さん、久し振り。今年は随分、早いな。例のアレ、入ってるよ。確めとくれ」
店主の老人が、愛想良く答え、奥に引っ込んだ。
三ツ矢は持参した袋から、石盤を取り出す。村長が作った【炉】の石盤だ。続けて取り出した陶器の小瓶には、【無尽】の術が掛かっている。
店主は、一冊の本を手に、戻って来た。
三ツ矢がパラパラと捲る。双魚も横から覗いた。
魔道書だ。
魔法の道具とその製法が書かれている。【編む葦切】学派の魔道書だった。
三ツ矢が頷き、カウンターに置いた石盤五枚、小瓶三本を店主に押しやる。
店主は小声で合言葉を唱え、火が着くことを確め、すぐに消した。
「水は入れて来た」
三ツ矢が言うと、店主は小瓶を抱えて奥へ引っ込んだ。三ツ矢は袋からもう一本、小瓶を取り出し、双魚に手渡した。
「忘れるところだった。予備に一本持ってけよ」
「えっ? いいんですか?」
「あぁ、孫が世話になったからな」
店主が満面の笑みで戻って来た。
「確かに。三ツ矢さんとこのは、いつも間違いがなくて、助かるよ。これ、オマケだ」
「ありがとよ。ウチもよくしてもらって、助かるよ」
膨らんだ布袋を受け取り、三ツ矢は店を出た。双魚も店主に会釈すると、置いて行かれないよう、ついて行く。
市場は、店の呼び声や値切る客の声で賑やかだ。
三ツ矢は、人の流れを巧みに縫って歩く。目当ての店があるのか、迷いがない。
魚の干物専門店、干し肉専門店、野菜と果物の乾物屋、最後に菓子店で堅パンを買い、市場を後にした。
双魚にとって、カネと引き換えに何かを手に入れる買物は、初めてだ。
何故、こんな物が様々な物と引き換えられるのか、店番の手伝いをしていても、ピンとこない。三ツ矢に教えられ、見様見真似で代金を払う。
「何だ。待ちに居たのに、買物したことなかったのか」
「えぇ。まぁ、特に用がなかったので……」
三ツ矢に呆れられ、頭を掻く。
「覚えられたか? これからは、一人で、買物せねばならんのだぞ?」
「……多分、何とか……します」
真顔で心配され、自信がなくなった。自分を鼓舞する為に、断言する。