■薄紅の花 04.河口の街-17.未知の薬 (2016年01月03日UP)
朝食の席で改めて、二人に心配を掛けたことを詫びた。
亭主は子供に言って聞かせるように苦言を呈し、おかみさんは、「まぁ、でも、無事でよかったわ」と苦笑した。
昼過ぎに、先日の使者が店を訪れ、医院用の薬の材料を置いて行った。材料と、必要な薬の一覧も渡された。
今月は、残りの日数が少ない為、必要な薬も少ない。
双魚は体慣らしに、簡単な咳止めを作った。
薬は完成したが、普段以上に疲れを感じた。手足が重く、力ある言葉に魔力を乗せるのが、若干、遅れる。
あの甘ったるい塊のせいだろう。
双魚の知らない薬だった。効き目が早く、強力で、幽かに魔力を感じた。まだ、影響が残っていることが不気味だ。得体の知れない何かに、体の内側から蝕まれている……不吉な想像に囚われ、不安に駆られる。
不安を振り払う為、作業に集中した。
おかみさんに、夕飯の支度をしたいんだけど、と遠慮がちに声を掛けられるまで、時間を忘れて薬を作った。
外はもう暗くなっている。双魚は手早く片付け、おかみさんの代わりに店に立った。
客はなく、静かだった。
足下の木箱に、今日買い取った薬草が入っている。水抜きをして、種類毎に束ね直す。
双魚は覚えていなかったが、あの男は、客として、何度も来たことがあるようなことを言っていた。
夏は、店と台所を仕切る扉を開け放しにしていた。薬を作っている姿を一方的に見られて、顔を覚えられ、【魔道士の涙】の素材として、値踏みされていたことに、肌が粟立つ。
この街に来た日、三ツ矢と共に魔道士狩りの噂を聞いた。あの時の空恐ろしさを思い出した。
亭主に「なるべく外に出ない方がいい」と言われ、これまでずっと店の外へ出なかった。
三ツ矢は、双魚が自分の身を守ろうと、不用意に術を使い、人を殺めてしまうのではないか、と危惧していた。双魚も戦い慣れていない自覚がある。
今回も、小太りの男を振り解くことができず、ただ、恐怖に竦んでいた。
魔法が使えたって、いざという時、何もできないんじゃ……
自分の迂闊さと無力に下唇を噛んだ。
数日掛かってやっと、疲労感が抜けた。いつもの調子を取り戻し、腰を据えて薬を作る。
納品の日まで充分な余裕をもって、頼まれた薬を用意することができた。医院の分は、納品用の箱に片付け、店で販売する分を作る。
「病み上がりなんだから、あんまり無理せんようにな」
双魚の回復を喜びつつも、亭主は釘を刺すことを忘れない。
目を離すと、寝食を忘れて没頭してしまう。それが双魚のいい所であり、悪い所でもあった。
月末、薬を受け取りに来た使者に、間違いなく渡す。来月分の薬の材料が、台所に運ばれる。
おかみさんが代金を受け取り、金額を確認した。
「それでは、また来月、宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそ……」
双魚は、戸口で使者と当たり障りのない言葉を交わし、ホッとして見送った。
使者は、先日の帰り、双魚が殺されかけたとは知らない。すぐ近くまで、馬車で送ってもらえばよかった、と何度も後悔した。
それでも矢張り、外に出たい気持ちを抑えられない。