■薄紅の花 04.河口の街-10.調達依頼 (2016年01月03日UP)

 素材の在庫がなくなる少し前に、おかみさんは薬の素材と容器などを仕入れてくれた。
 客が時折、持ち込む薬草なども使い、双魚は薬を作り続けた。
 薬草が持ち込まれると、おかみさんは、双魚に目利きを頼む。双魚が、どんな薬の素材になるか説明し、質の良し悪しを答えると、おかみさんは、この街の相場通りの値段で買い取った。
 街で安定して仕入れられるのは、貝殻と油と天日干しした傷薬の薬草と、虫綿、熱冷ましになる地虫、何種類かの種子だった。
 これだけでは、薬の種類も限られてしまう。

 季節が移り、食卓に上る魚や野菜の種類が変わった。採れる薬草も変わる。流行る病も変わる。
 双魚の言葉は、かなり上達した。
 おかみさんが、夏の間に双魚が作った香草茶を商品棚に並べた。体を温めて風邪を防ぐ温香茶だ。
 双魚は思い切って、他の薬草も欲しい、と言ってみた。おかみさんは快く引き受け、どんなものが欲しいか、書き出すように言った。言われた通り、一覧表を作る。
 おかみさんはそれを見て、小さな紙片に一種類ずつ書き出し、店の壁掛けに貼り出した。
 「こうやっとくとね、お客さんが見て、持って来てくれることがあるんだよ。まぁ、必ず手に入る訳じゃないから、あんまりアテにしないで、のんびり構えとくれ」
 壁に掛けた厚手の布に、紙片を一枚ずつ、待ち針で留めながら、おかみさんは、にっこり笑った。

 数日後、薬草を売りに来た客が、壁掛けから紙片を外した。
 双魚は驚いて声を掛けたが、何と言えばいいわからず、口ごもった。
 「あ、あの、それッ……」
 「これとこれは、生えてる場所を知ってる。次に来た時、持ってくるよ」
 「え、あ、そうなんですか。お願いします」
 客は言いながら、紙片をポケットに仕舞う。双魚は、後で紙片を返してもらえるのだと思い、座り直した。
 市場から戻ったおかみさんに、紙片の件を伝える。
 「あら、早速、引き受けてもらえたの。よかったねぇ」
 おかみさんは嬉しそうに笑い、双魚もつられて笑った。

 礼の紙片を持って帰った客は、三日も経たずに、書いてあった薬草を持って来た。他の薬草とは別に、紙片を添えてカウンターに置く。
 「じゃ、これ買い取りの分と、こっちは手間賃。またお願いね」
 「おう。こっちこそ、またよろしくな」
 客が出て行った後、おかみさんは支払いの説明をした。
 「これは、こっちからお願いして、都合してもらった物だから、別に手間賃も出すのよ。普通じゃ、仕入れられないからね」
 「へぇー……」
 最近、大分この辺りの仕組みも、わかって来たつもりでいたが、まだまだ、知らないことだらけだった。

 晩秋を迎え、双魚が作った魔法薬は、よく売れた。
 よく効くとの評判が更に人を呼び、おかみさん曰く、開店以来の大繁盛だった。
 寒さが厳しくなるにつれ、店の品揃えも変わった。
 羊毛を紡いだ糸を買い取り、それをそのまま棚に並べる。毛糸を買った人が、数日後、手袋や襟巻を編み上げて売りに来た。またそれを買い取り、売りに出す。
 何人もの手を経て、手間が増えるに従い、値段も上がった。
 「まぁ、それぞれ、専門の問屋さんやら、職人さんやらも居るんだけど、大口しか扱ってないからね。小口は、ウチみたいな店で扱うんだよ」
 おかみさんは、少しずつ、この街のことを教えてくれた。

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第04章.河口の街
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