■薄紅の花 04.河口の街-31.夏至の祭 (2016年01月03日UP)
さっぱりした家で、夏至祭当日を迎えた。
日の出と同時に、神殿で儀式が始まった。
祭司とキートの主だった面々が、一年で最も長い日に祈りを捧げる。
住人は、神殿前の広場で跪いて祈った。
雲ひとつない青空に、朝の光が満ちる。
儀式の終わりを告げる鐘の音が、街に、港に鳴り渡る。
澄んだ音色と同時に、広場の人々が魔除けの枝を手に立ち上がる。
今年の舞い手に選ばれた少年少女が、広場の外周をゆっくり歩く。
組紐で束ねた枝を左右に揺らしながら、人々の周囲を三周し、神殿前の階段を昇った。広い踊り場で、巫女たちと合流する。
百人余りの舞い手と巫女は、夏の日差しを表す純白の衣裳を纏っている。広場に集まる人々も、多くが枝を持ち、白い服に身を包んでいた。
巫女たちは冬至同様、魔力を籠めた水晶を帯びている。
楽が奏でられ、巫女の先導で少年少女が一斉に枝を振り、踊り始めた。
ゆったりした衣が風を受け、翻る。枝を束ねた組紐の端が、紅白の軌跡を描いて流れる。
少年少女は、一糸乱れず、一心に枝を振る。
瑞々しい常緑の枝が、遠目には漣に見えた。
あ……これも呪文だ……
巫女と少年少女の舞いは、全く異なる。巫女が枝で宙に長大な呪文を描くのに対し、少年少女は数人ずつで、同じ単語を順繰りに送っている。
双魚の知らない呪文だが、枝の動きを目で追うと、力ある言葉を読みとる事ができた。
日輪、峻厳なる日輪、峻厳なる輝き、輝き清める
清める光、光よ空に満ち、満ち溢れ、溢れ退けよ
退けよ穢れ、穢れ祓え、祓え清めよ、清めよ光
少年少女も、数人に一人は水晶を着けていた。枝を振る度に胸元の水晶がきらめき、呪文が効力を発揮する。
双魚の眼には、その子の周囲が僅かに明るく見えた。
巫女の舞いは動きが早く、単語を幾つか拾うに留まった。恐らくこれも、浄化に関する呪文だろう。
日が高くなる頃、神殿前での舞いの奉納が終わった。
巫女一人と少年少女数人で一組になり、街の各所へ散って行く。
住人もその後に従い、広場を離れる。
「街の要所要所で舞って、場を清めて下さるんだ」
四つ辻、井戸、市場の入口、小広場、港、街の四方の門で、力ある言葉を綴る舞を奉じる。街の住人も、自宅近辺で共に舞う。途中、昼食や小休止を挟みながら、日没まで続けるのだ。
雑貨屋の近くは、共同井戸で舞が奉じられた。
街中では巫女が主旋律を歌い、少年少女の振りで舞うらしい。近所の住人も同じ単語を繰り返し、宙に綴っている。
日輪、峻厳なる日輪、峻厳なる輝き、輝き清める
清める光、光よ空に満ち、満ち溢れ、溢れ退けよ
退けよ穢れ、穢れ祓え、祓え清めよ、清めよ光
巫女は力ある言葉で、呪文全体を歌っていた。水晶の魔力が引き出され、浄化の術が発動する。
井戸端に漂う雑妖が、魔除けの枝で叩かれて地に落ち、巫女の歌の力に触れて消えた。
風が軽くなり、場を吹き祓う。
夏の方が、念入りに清めるんだな……
湖東地方では、冬至に浄化を行っていた。双魚は朧げな記憶を手繰りながら、巫女の一団を見送った。