■薄紅の花 04.河口の街-26.太り過ぎ (2016年01月03日UP)
雑貨屋に帰ったのは、昼餉時をとっくに過ぎた頃だった。おかみさんが、柔和な笑顔で三人を迎える。
「遅かったねぇ。遠くまで行ってたのかい? 悪いけど、私らは先に済ませたよ。今、あっため直すから、待ってて」
すっかり汗だくになった双魚は、手桶の水を起ち上げ、体を洗った。
三兄弟が歓声を上げる。
「凄ぇ! 今の何だッ?」
「え……体、洗っただけですよ? 汗かいちゃったから……」
「俺もやってくれよ、俺も!」
「えっ? あ、はい、いいですよ」
双魚が困惑しながら了承すると、白鮫が勢い込んで手を挙げた。
「俺もッ! 俺もちゃんと用心棒したしッ!」
「兄貴達ばっかりズルイぞ」
「お前は明日やってもらやいいだろ」
双魚に洗われながら、三兄弟がじゃれあう。双魚はふとと考えた。
何事もなければ、俺たちもこの人達みたいに、仲良しの兄弟で居られたのかな……
懐かしさと同時に、胸の奥を針で突かれたような痛みを覚えた。
おかみさんは双魚を気遣ってくれたのか、いつもより少なめに盛りつけた。遅い昼食を採りながら、縞鯱と白鮫が先程の出来事を冗談交じりに語る。
双魚には、家族の和やかな食卓が、急に遠く感じられた。
食卓を片付け、薬を作る。
道具類の準備は、三兄弟が手伝ってくれた。家族揃って、双魚が薬を作る様子を飽かずに見物する。
「世間は休みだってのに、働かせちまって、すまんな」
「いえ、いつもお世話になってますし、息子さん達は今しか見られませんから」
作業が一段落した時、亭主に頭を下げられた。双魚は素材集めに付き合って貰ったこともあり、お互い様だから、と頭を上げさせる。
夕飯の準備が始まるまで、のんびり薬を作って過ごした。
部屋へ戻り、一人になってすぐ、双魚はズボンを脱いだ。
案の定、股擦れができている。内腿のすり傷がひりひり痛む。
普通の服なら、ズボンにも穴が開いていた事だろう。この服には【補強】が掛かっている為、ちょっとやそっとで破れる事はない。
傷薬を塗り、慎重にズボンを履き直した。
キツくなっているとは言え、履けない程ではなかったので、油断していた。
少し歩いただけで、膝とふくらはぎも痛んだ。
……太り過ぎだ。
これまでは、旅程や素材集めの為に歩く事が多かった。人里離れた場所を歩いていた頃は、食うや食わずやの日もあった。
ここでは、雑貨屋に留まり、守られている。食事は毎日三食用意してくれる。
素材も、客が持ち込んだり、おかみさんが仕入れたり、医師の使者が運んで来てくれる。
双魚は、どこにも行く必要がない。
薬を作れば疲れはするが、体は動かさないので、鈍り切っているのだ。
改めて分析するまでもなく、太った原因は明らかだった。
さて、どうしようかな……
溜め息を吐きながら、ベッドに入った。