■薄紅の花 04.河口の街-39.商船の件 (2016年01月03日UP)

 気まずい沈黙を打ち破り、雫星(しずくぼし)が世間話を始めた。ホッと空気が緩み、料理を口へ運ぶ手が軽くなる。

 俺が余計なこと、言ったからかな? それとも、魔法使いだけで集まると、いつでもこんな感じになってしまうのかな?

 魔力を持つ者、持たざる者。
 カネを持つ者、持たざる者。
 両者の間には、深く暗い河が流れているのではないか、と思えた。
 食後のお茶を飲む頃には、すっかり和やかな雰囲気に戻っていた。
 「魔法だけじゃ完治させられない病気もあるけど、薬は材料がないと作れないのにね」
 影菱(かげびし)が小さく溜め息をついた。
 カネを持っている患者の横暴がどれ程、不快か、医院の四人が話し始める。風向きが変わったことに、双魚は不安を覚えた。
 「おカネさえ出せば、何でも思い通りになる……と思いこんでいる方も、居ますからね」
 困ったものです、と院長が苦笑する。
 「『高いカネ払ってんのに、何で治らないんだ』『俺を誰だと思ってる』が決まり文句なんだ」
 雫星医師の言葉で、双魚はいつかのタカリを思い出した。
 それに影菱医師が、頷いて同意を示す。
 「判で捺したみたいに、みんな同じコト言うのが、不思議なんだよね」
 「おカネを万能だと思っているのですよ。薬の材料をお持ちいただいた方が、ずっと治療の役に立つのですが、ここでは、そうも行きませんので……」
 院長が言うと、菱桶(ひしおけ)が思い出したように言った。
 「材料と言えば、あの大きい商船、どうしたんでしょうね? この辺にはない物が色々買えて、便利だったのに」
 双魚と院長が顔を曇らせたが、他の三人は気付かず、その話題を続ける。
 「荷主連中の間じゃ、魔物に沈められたんじゃないかって、噂になってるよな」
 「あ、その話し、僕も聞いたよ。荷物の損害がどうとかって、おカネの話ばっかり」
 言われて初めて気付いた。
 大型商船海龍号は、このキート港からも荷を積んで、他所の港で売っている。預けた荷を売り捌いた代金が入らなければ、荷を預けた商人は損をするのだ。
 荷主も海龍号の行方を追っている。少なくとも、資金を出し合い、遠くまで人を遣るくらいのことはしているだろう。
 魔物云々は、恐らく、単なる憶測による噂話だろう。
 正式な調査結果なら、キート港で働く倉庫や荷役、船舶の各組合にも連絡が行く筈だ。

 ここ、西の終点って言ってたよな。反対側の、東の終点で何かあったとしたら……

 一年掛かりで往復する商船だ。消息を尋ねて、何隻もの船を乗り継いで行くとなると、どのくらい掛かるのだろう。
 商船には荷待ちがあるが、それを差し引いても、乗り継ぎの便を待てば、同じだけの日数が掛かるかもしれない。
 それだけ遠方となると、調べに行った者が無事に帰れる保障もないかもしれない。獣や魔物、嵐や野盗。旅人を襲う禍(わざわい)は、ひとつではない。
 「早けりゃ、そろそろ何か音沙汰あっても、いい頃なんだがな」
 どこか遠くを見る目で、雫星医師が言った。

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第04章.河口の街
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