■薄紅の花 04.河口の街-21.冬至の祭 (2016年01月03日UP)
翌日、日暮れの少し前から、冬至祭が始まった。
夕飯は、南瓜をふんだんに使ったご馳走だった。南瓜スープ、小さな南瓜の中をくり抜き、野菜のみじん切りとひき肉を詰めて焼いた物、南瓜を練り込んだパン、南瓜と魚の揚げ物。飲み物は、太陽を表す柑橘の果汁。
おかみさんが腕によりを掛けた夕飯の後、揃って街へ出た。
既に日が落ちていたが、家々から漏れる灯と篝火などで、道は明るく照らされている。
今夜は一年で一番長い夜だ。
蝋燭に神殿から分けられた火を点し、灯を絶やさぬよう、寝ずの番をする。若い男女は神殿で祈りを捧げた後、火を表す赤い衣に身を包み、広場に設けられた篝火の周囲で夜明けまで踊る。
双魚にとって、初めての行事だ。
生まれ育ったラキュス湖東地方でも、冬至祭はあるが、これ程、盛大に行われることはなかった。
一年で最も長い夜は、魔物が最も活発になる。キートの街中でも、そこここの暗がりで雑妖が蠢く。人々は灯の傍に集まり、身を守る。
……あぁ、そっか。ここの人達は魔法が使えないから……
魔法使いなら、ある程度、自力で闇に抗する手段を持っている。【灯】は敢えて術を解かない限り、一晩中光を放つ。寝ずの番をする必要はない。
魔除けのお守り、結界、それどころか、魔物を直接倒し得る術もある。
双魚は歩きながら、篝火を囲んで踊る人々を見る内に、気付いた。この踊りの振りは、魔除けだ。手の動きが、力ある言葉の形をなぞり、【魔除け】の呪文を綴る。
舞い手の中に魔力を持つ人が居れば、術は効力を発揮する。双魚の見た所、この輪の中には居ないようだ。
炎を模した赤い衣装の群が舞う。形骸化した舞いではあるが、見る者を魅了する不思議な美しさがあった。
舞い手から少し離れたところで、数人が弦を爪弾いている。旋律と舞い手の動きを追っていると、この曲が【魔除け】の呪文の抑揚であることに気付いた。
神殿の紋章を身に着けている舞い手は、巫女だろう。腕環と首飾りには、水晶が嵌っている。水晶には魔力が籠っているのか、巫女の舞いは【魔除け】の効力を発揮していた。
日月星(ひつきほし)蒼穹(そうきゅう)巡り、虚ろなる闇の澱みも遍(あまね)く照らす。
日月星、生けるもの皆、天仰ぎ、現世(うつよ)の理(ことわり)、汝(いまし)を守る
【魔除け】を綴る手の動きと旋律が重なる。水晶の魔力が、巫女の動きに合わせ、魔を寄せ付けぬ淡い輝きを放つ。