■薄紅の花 04.河口の街-24.新年の街 (2016年01月03日UP)
東の空が仄白く染まり、長い夜が明ける。
今年最初の朝日を受け、冬空に薄く広がる雲が淡く輝く。
目を覚ました鳥が、塒を飛び立ち、鳴き交わす。
神殿の鐘楼が、夜明けを告げる。新たな一年を迎えた街に、澄んだ鐘の音が響き渡る。
最も長い夜、灯を守り通した人々が、通りへ出る。
雑貨屋の一家も、大通りに出た。近所の人々と新年の挨拶を交わしながら、港へ向かう。
双魚も、何人か顔見知りの客と出会い、雑貨屋に倣って新年の挨拶をした。
港には既に大勢、人が集まっていた。
昇り切った朝日の下で、穏やかな海原が輝いている。
繋留中の船や艫綱には、藁で編んだ魔除けが掛けられていた。気休め程度の効力だが、形と手順さえ間違えなければ、魔力がなくても作ることができる。
「俺達の船は、あれだ。船首に龍がついてるから、海龍号って呼ばれている」
長男の縞鯱が指差す先には、一際大きな帆船があった。
遠目にも、その威容に圧倒される。周囲に建ち並ぶ倉庫よりも大きく、七本の帆柱が天を突いて聳え立つ。帆を畳んでいても、複雑に張り巡らされた綱が、船に凛とした美しさを与えていた。
見物する人の輪が、船を半円形に取り囲んでいる。何故、こんな大きな物が浮いていられるのか。
「ここが航路の西の端。東の端までは、あちこちで人や荷の揚げ降ろしがあって、寄り道するから、まぁ、半年は掛かるな」
三男の青波が、東の海を見ながら言った。次男の白鮫が補足する。
「航路の東の端ったって、大陸の果てにゃ、まだまだだ。俺達だって、そんな遠くは知らん。あんた、やっぱ、凄ぇな」
「えっ、い、いえ、そんな……」
「ま、ご先祖さんが一回来た道だ。子孫が引き返すのも、できるだろ」
三兄弟は双魚の肩や背中を叩き、笑いあった。
その日は一日、のんびり過ごした。
一月は、十二月が短い分、日数が多くなる。
その増えた日数は、年の初めの休日で、大抵の店や職場は休みだった。この辺りでは、冬至祭も含めて七日間休む習わしだ。
翌朝、朝食お終えた途端、縞鯱と白鮫が勢いよく立ちあがった。双魚が何事かと戸惑っていると、縞鯱が満面の笑みで言った。
「よし、今から薬草採りに行こう」
「薬作るとこ、見せてくれよ」
白鮫も外套を手に瞳を輝かせている。双魚は二人に押される形で、慌てて身支度を整え、店を出た。
雑貨屋夫婦は苦笑し、三男の青波は羨ましそうに見送った。
道行く人は少なく、街は静かだ。兄弟は双魚に合わせてゆっくり歩いた。双魚はなるべく大きな歩幅で、二人についてゆく。
ここで冬を過ごすのは初めてだ。
どの程度採れるのか、まだわからないが、主な目的は鈍った体を動かし、体力を付ける事だ。目ぼしい物がなかったとしても構わない。双魚は麻袋一枚を手に、久し振りの外歩きに集中した。
城門を出る頃には軽く汗ばみ、息が上がっていた。余分な腹肉がたぷついて、体が重い。ズボンの股がすれ、腿が傷む。
双魚は二人に気付かれぬよう、呼吸を整えながら、街の外へ出た。