■薄紅の花 04.河口の街-06.薬のお代 (2016年01月03日UP)
二日後の朝、約束通り、先日の老人と息子夫婦が、雑貨屋を訪れた。
双魚は台所で、おかみさんが仕入れた素材を遣い、熱冷ましを作っていた。おかみさんに呼ばれて、店へ顔を出す。
お茶を飲んでいた三ツ矢も、席を立った。
三人は何度も礼を言い、双魚に言われるまで、頭を上げなかった。
「じゃあ、すんませんが、俺は仕事がありますもので、……親父と女房が、代わりに働きますんで、先生、よしなに……」
「あ、いや、俺、先生なんてもんじゃ……」
双魚が言い終わらない内に、すっかり元気になった男は、走って行った。
「俺もついて行く」
三ツ矢は麻袋を手に外へ出た。双魚がおかみさんから袋を借り、後に続く。老人と女房も、後を追った。
今日は外套なしで出掛けたが、それでも魔法使いの二人は、厚着だった。
通りを行く人々が、二人の姿に釘付けになる。数人で額を寄せ合い、小声で何事か囁く。
「堂々としてろ。俺達は何も、悪いことはしてないんだ」
「は……はい」
三ツ矢に背中を叩かれ、双魚は背筋を伸ばした。
街に溶け込めるよう、目立たない服に着替えるべきか、などと考えながら歩く。だが、道行く人々の暑そうな様子に躊躇した。
門を抜け、河川敷に向かう。
橋は渡らず、草地に降りた。
双魚の説明を、三ツ矢がたどたどしく訳す。老人と女房は、麻袋を手に、真剣に耳を傾けた。
ここにも、傷薬の薬草と虫綿が豊富にあった。
傷薬にする薬草の葉は、濃い緑色で、鋸のようにぎざぎざ細かい切れ込みがある。茎には、白く柔らかな産毛が密生し、虫が冬を越した綿が付いているものもある。今の時期は、葉の付け根に白く小さな花を咲かせていた。もう少しすれば、赤い実が生る。
「あぁ、これ、薬草だったのかい」
女房が明るい声で言った。お祭にだけ食べる特別な菓子に使っているもので、よく知っている。
双魚は今回、老人と女房に、傷薬用の薬草と虫綿だけを、採ってもらうことにした。一カ所で採り尽くさないよう、注意を与え、双魚と三ツ矢は少し離れた場所で、別の薬草を探す。
体を温める作用のある薬草が、群生していた。独特の風味に好みは分かれるが、香草茶にして飲むものだ。
二人は麻袋一杯分、薬草を採った。
枕ふたつ分程のふくらみを抱え、老人と女房の姿を探す。
叢を少しずつ移動しながら採ったらしい。かなり上流の方に小さく見えた。近付くと、そろそろ袋が満杯になる所だった。これだけあれば、相当な量の傷薬ができる。
虫綿も、鍋一杯分程、集まっていた。
二人は汗だくで、顔が赤い。河原の石の照り返しで、足下からも炙られていた。
治療の対価として充分だと伝え、【跳躍】で街の門の前まで戻った。
二人は驚いて、何度も周囲を見回し、双魚と三ツ矢をまじまじと見て、何か言った。
「あんたら、ホントに凄い魔法使いなんだな、だとよ」
三ツ矢が苦笑交じりに訳す。双魚は、どんな顔をすればいいかわからず、頭を掻いた。
雑貨屋に戻り、薬草を点検する。
老人と女房は、間違いなく、傷薬用の薬草と虫綿を集めていた。他の植物の混入は一切ない。
「これだけあれば、治療の報酬としては充分ですよ。ありがとうございました」
「儂らの方こそ、何とお礼申し上げてよいやら……先生、また薬草が要り用になったら、いつでも呼んで下せぇ」
「ありがとうございます。先生、ホントに、ありがとうございます」
二人は何度も頭を下げながら、長屋へ帰って行った。
昼食後、双魚は雑貨屋のおかみさんに油を分けてもらい、傷薬を作った。
七つあった薬壺を全ていっぱいにしても、薬草はまだまだある。残りは水抜きして、麻袋に戻した。
「あらあら、じゃあ、薬壺をたくさん、仕入ないとね。他に何か要る物、ある?」
「うーん……食用の植物油と、封をする油紙と、香草茶を小分けする袋も、お願いしていいですか?」
「勿論よ。明日の昼過ぎには、用意できるから、待っててね」
おかみさんは、必要な物を復唱して、紙に書きつけ、店を閉めてどこかへ行った。