■薄紅の花 04.河口の街-40.金を託す (2016年01月03日UP)
朝食後、雑貨屋まで馬車で送られた。
戸口まで使者が付き添い、魔道士狩りを警戒する。
双魚は、魔法を使えても、いざと言う時には動けなくなることを思い知った。魔法の使えない使者の存在が、心強い。
雑貨屋は開店準備中で、おかみさんが笑顔で二人を迎える。
「おはようございます。わざわざお送りいただいて、ありがとうございました。よかったらお茶でも……」
「いえ、すぐに戻ってご無事を報告せねばなりませんので。お気持ちだけ、有難く」
「お忙しいんですねぇ。ありがとうございました」
おかみさんは、心底、残念そうに使者を見送った。
双魚が準備を手伝う間、おかみさんは何か言いたそうにしていたが、結局、何も言わないまま、店を開けた。
気になったが、双魚は何も聞かず、台所に引っ込んで薬を作った。
一緒に昼食を食べている間も、おかみさんは何か言いたげに、双魚を見る。双魚はどうしたものかと思いながらも、上手い対応を思いつかなかった。
食後のお茶を淹れ、おかみさんが何かを決心した目で、やっと口を開いた。
「ねぇ、双魚さん。先生方から、何か……聞いてないかい?」
カップに添えたおかみさんの手が、小刻みに震えている。双魚は質問の内容がわからず、首を傾げた。
「あの……何かって……?」
「医院は、ウチとは客層が違うだろ? 何か、噂話とか、ねっ?」
そこまで言われて、やっとおかみさんが何を知りたがっているか、わかった。慎重に言葉を選んで、答える。
「荷主さんとかが、人に頼んで、東へ調べに行かせてる……みたいな話は聞きましたよ。誰が誰に頼んだかまでは、聞いてませんけど……」
おかみさんは瞳を輝かせて、双魚に先を促した。
「早ければ、そろそろ何か報せがあってもいい頃だけど、何せ遠いから、まだみたいで、みんな待ってるそうですよ」
「そうかい。じゃ、待ってれば、その内、わかるんだね?」
「多分……」
おかみさんは、落胆と安堵が綯い交ぜの複雑な表情で、双魚に礼を言った。
その日から、おかみさんはキート港に立つことをやめ、以前と同じように店に出るようになった。
亭主と双魚は胸を撫で降ろし、それからの日々を少し心安く送った。
医院との最後の取引も無事に終わった。
院長が使者に託(ことづけ)た菓子をつまみながら、雑貨屋夫婦と双魚は、ささやかなお茶会を催した。
「過ぎてみりゃ、三年なんてあっという間だったよなぁ」
「そうですね。色々と、ありがとうございました」
「なんのなんの。世話になったのは、こっちの方だ。ありがとよ」
「あと一か月もしない内に旅へ出るんだねぇ。双魚さん、船の手配は?」
おかみさんに問われ、双魚は陸路で行くことに決めた、と答えた。更に、重くて持って行けないから、現金は置いて行く、とも。
双魚の予想通り、夫婦は驚いて、持って行くように、と強く勧めた。双魚は首を縦に振らず、逆に夫婦を説得しにかかった。
「俺、住む所や食事の他に、この街での暮し方のこととか、知らないことをいっぱい教えてもらって、すごく感謝してるんです」
猫島夫婦は困惑しながらも、双魚の言葉に耳を傾ける。
「船賃はわかりませんけど、一回くらい、お孫さんに会いに行く足しになると思うんで、受け取って下さい」
カネの値打ちがわからない自分が持っていても仕方がないから、と重ねる。
夫婦は顔を見合わせ、目線で何事か遣り取りした後、頷いた。
「……わかった。ありがとう。双魚さんの気持ち、決して無駄にはせん」