■薄紅の花 04.河口の街-23.船賃幾ら (2016年01月03日UP)
小さな炎を見ながら、三兄弟が船中や寄港地での出来事を面白おかしく語る。双魚も旅の話を求められ、脚色を交えず語った。
一家は魔法使いの国に興味津々で、双魚の拙い話に聞き入った。
兄弟の乗り組む船は、大型の帆船で、荷物を主に扱うが、旅客用の部屋も備えている。主に買い付けに行く大商人や、物見遊山の富裕な客用で、贅沢な造りの部屋ばかりだ。他は、彼らに付き従う使用人の大部屋がある。
旅客の運賃は、行き先にもよるが、一番近い港へ行くだけでも、兄弟の五カ月分の給金と同じくらい。従僕用の大部屋でも、一か月分程度。毎年、家族を連れて帰省することなど到底、できない。
他の船は、この航路を持っておらず、間の航路がない海域があり、乗り継ぎもままならない。
「遠くで所帯持っちまったばっかりに、親不孝ですまねぇ」
「それは言わない約束だよ」
「なぁに。俺たちだって、島を捨てて来たんだ。どこへでも行って根を降ろして、そこを故郷にすりゃいいんだ」
頭を下げた白鮫をおかみさんが窘め、亭主は笑い飛ばした。
「双魚さんは、里帰りしねぇのか?」
三男の青波が聞く。双魚は少し迷ったが、正直に答えた。一家は、双魚の身の上話にしんみりと耳を傾けた。
泣くこともなく、淡々と話す自分は、矢張り薄情なのだ、と双魚は改めて自己嫌悪に駆られた。
「……先祖が生まれた東の果て、アルンディナへ行ってみたくて、旅をしてるんです」
「そうだったのか……お袋から、三年はウチの店で働いてくれるって聞いたんだが、給金は船賃くらいには、なるのかい?」
「一番遠くまで行くのに、どのくらいなんですか?」
「そうだなぁ……いい部屋だと、俺の給金三年分くらい、使用人部屋でも、十か月分は行くだろうなぁ」
長男の縞鯱が、路銀の心配をする。双魚は途方に暮れた。思いがけず、医院の仕事が入ったが、それで足りるのか、まだ、よくわからない。
「特に急ぐ旅でもないんで、もし、足りなければ、陸路で行きますよ」
「そうかい? 高くつくが、船なら歩きより大分、速いぞ?」
「薬師だから、船医として乗り組ませてもらえないか、船長に掛けあってみるが、どうだね?」
「片道だけで下ろしていただけるんなら、有難いんですけど、ずっと居て欲しいって言われるとちょっと……」
「そこは俺もちいと心配なんだが、まぁ、聞くだけ聞いてみるゎ」
「ありがとうございます。お願いします」