■飛翔する燕 (ひしょうするつばめ)-16.軍馬で行く(2016年04月10日UP)
三日後、装備を整え、烈霜騎士団・緑の手袋小隊は王都を出発した。
近衛騎士団・赤い盾小隊と王女の馬車に続き、騎馬で付いて行く。【跳躍】すればいいようなものだが、王女の視察も兼ねている為、馬車で行くのだ。
ナイヴィスは、最近やっと馬に乗れるようになった。
落馬しないよう、手綱を握り締め、ほとんどしがみつくような姿勢で馬の背に揺られる。
賢い軍馬は、ナイヴィスの指示がなくとも、隊長の隣に並んで歩いた。
「ナイヴィス、見てみろ。今日は山がくっきりして、いい眺めだぞ」
「は、はいっ。今日のお天気は快晴、誰かが雲を呼ばない限り、夕立もありません」
「うむ……もう少し馬を信用して、肩の力を抜け」
「は、はい……」
言われて急に出来る筈もなく、ナイヴィスは顔を上げることすらできない。
「今回の任務は、確かに危険は伴うが、まぁ気楽に行け」
「……」
ナイヴィスが答えられずにいると、ソール隊長は前を行く騎士に視線を向け、言った。
「赤い盾小隊は、全員が退魔の魂だ」
「えっ?」
驚いて顔を上げ、ナイヴィスも前を行く一団に目を凝らす。
彼らの腰に剣はなかった。
あるのは、柄だけだ。その柄頭に【魔道士の涙】はない。
「彼らは今、自らの全存在を捧げている最中だ。命尽きるまでに、多くの三界の魔物を倒せば、それだけ、後に残る退魔の魂も強力になる」
〈私はもう、これで完成されてるから、なるべく彼らに譲ってあげるつもり〉
ナイヴィスは、自分の腰で囁く魔剣に視線を落とした。
ポリリーザ・リンデニーも本来、鞘は不要だ。
鋼の刃はなく、【魔道士の涙】から注がれる魔力で斬る。
刃を物質化させるかどうかは、ポリリーザ・リンデニー次第。ナイヴィスの意のままにはならない。
鞘は空っぽで、トルストローグたちの持つ真剣程、重くはないが、ナイヴィスの心は重かった。
「四月に騎士団長の間で、会議が持たれてな、ナイヴィスの能力を考慮して、烈霜騎士団への配属が決まったのだ」
「えっ……そんな大事になってたんですか……?」
馬にしがみついたまま、なんとか顔だけを隊長に向ける。
〈当たり前じゃない。魔剣使いを何だと思ってるの?〉
「団長の目に狂いはなかった。お蔭で書類作成では、大いに助かった」
「えっ……えーっと……」
「今度は我々がお前を助ける番だ。必ず守る。今回は生き残ることだけを考えろ。無理に倒す必要はない」
「は、はいッ」
頷いた拍子にずり落ちそうになる。慌ててしがみつき、前を向いた。