■飛翔する燕 (ひしょうするつばめ)02.初のモテ期(2016年04月10日UP)

 「あ、あの……騎士様、いかがでしたか?」
 「部下が追い払ってくれたが、一個、盗まれてしまった。すまんな」
 隊長の返答に、村長の顔が明るくなった。
 「ありがとうございます。お蔭様で、たった一個で済みました」
 嘆願書によると、先日までは、一日に数十個単位で盗まれていたとのことだ。
 収穫期の前にそんな調子で盗まれては、村人の食べる分が無くなってしまう。
 野良仕事から戻った村人たちから、わぁっと歓声が上がる。
 「騎士様、ありがとうございます」
 「明日も、追い払って下さるんですよね?」
 隊長が「魔獣を追い払った部下」と言ったせいか、ナイヴィスは、逃げる間もなく村娘に取り囲まれた。
 「いや、あの、私が追い払ったのではなく、向こうがびっくりして逃げ……」
 ナイヴィスは状況を正直に説明しようとしたが、隊長に足の甲を踏まれて口をつぐんだ。
 「キャーッ! カッコイイッ!」
 「騎士様の強さに、恐れをなしたんですねッ」
 「流石、騎士様」
 「ステキ……頼もしいわぁ……」
 純朴な村娘たちが瞳を輝かせ、頬をほんのり染めて、ナイヴィスを見詰める。
 ナイヴィスは、道中で見た野の花の群落を連想した。
 素朴な花々は、生命力に溢れ、夏の日射しに輝いていた。温室育ちのナイヴィスより、よっぽど逞しい。
 「明日はきっと、やっつけて下さいね」
 「怖気付いて、もう来なかったりして」
 「どうせすぐに忘れて、ノコノコやって来るって」
 乙女たちから「魔獣を追い払った強い騎士」へ、熱い視線と厚い期待が寄せられる。
 「騎士様、頑張って下さいねッ」
 「……前向きに検討させていただきます」
 ナイヴィスは、村の乙女たちから目を逸らし、地面を見詰めた。
 幼い頃には、近所の女の子と中庭で遊んだことならある。
 それ以降は、他所の女の子との接触は、全くと言っていい程、なかった。
 ナイヴィスの記憶を勝手に読み取り、魔剣が言う。
 〈あら、じゃあ、人生初のモテ期なの。よかったわね。ホラ、そんなお役所回答じゃなくって、何かもっと気の利いたこと言いなさいよ〉

 ……ムチャ言わないで下さいよ。

 初対面の女性相手に、気の利いた台詞がポンポン飛び出すなら、二十七歳の現在までに「人生初のモテ期」が発生しない筈がない。現に上の兄二人はとっくに結婚している。
 ナイヴィスは元々「モテ期」などと言うものには興味がない。
 家で静かに本を読んでいる方が好きだ。

 ……女の子にモテなくて結構ですから、文官に戻して下さいよ。

 〈何言ってんの。戻れるワケないじゃない。あなた、本物のバカなの?〉
 がっくり肩を落とすナイヴィスに、魔剣から容赦ない言葉が飛んだ。
 「さぁ、みんな、今日は解散。騎士様はお疲れだ。休ませて差し上げろ」
 村長の一声で、村人たちはぞろぞろ帰宅した。

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